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PAS(高圧気中負荷開閉器)の「方向性」と「無方向性」徹底比較

PAS(高圧気中負荷開閉器)の「方向性」と「無方向性」徹底比較

26/05/19 14:15

高圧受電設備の安全を守るPAS(高圧気中開閉器)には、昔主流だった「無方向性」と、現在の主流である「方向性」があります。無方向性は漏電の量だけで動作するため、周辺の事故に巻き込まれて自社が停電する「もらい事故」のリスクが弱点でした。一方、方向性は電流と電圧から事故の「方向」を感知し、自社内のトラブル時のみ作動します。現代は高圧ケーブルの普及によりもらい事故が起きやすいため、高精度に波及事故を防ぎ、操業の安定を守る「方向性」への導入・更新が標準となっています。

PAS(高圧気中負荷開閉器)の「方向性」と「無方向性」徹底比較

――なぜ、現代の主流は「方向性」なのか?仕組みと選定基準を解説

高圧電力(一般的に6,600V)を受電するビルや工場、商業施設などの民間設備(需要家設備)において、電気の安全を守るために欠かせない装置がPAS(Pole Mounted Air Switch:高圧気中開閉器)です。電柱の上部に取り付けられている、あの四角い箱のような機器を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

PASの最も重要な役割の一つに、敷地内の電気トラブルが電力会社側の電線(配電線)に波及して周囲一帯を停電させてしまう「波及事故」の防止があります。

このPASには、大きく分けて「無方向性」「方向性」という2つのタイプが存在します。かつては無方向性が主流でしたが、現在では方向性の導入が強く推奨され、主流となっています。本コラムでは、これら2つの違い、仕組み、そしてなぜ時代の変化とともに方向性が選ばれるようになったのかを、初心者にもわかりやすく2,500字超の大ボリュームで徹底解説します。

1. PASの基本役割と「波及事故」の恐怖

違いを理解する前に、まずPASがなぜ電柱の上に設置されているのか、その根本的な役割をおさらいしておきましょう。

私たちが使用する高圧電気は、電力会社の変電所から1本の配電線(本線)を通じて、何軒もの工場やビルへ数珠つなぎのように供給されています。もし、ある1つの工場内で「地絡(地面に電気が漏れるショート現象)」などの重大な事故が発生した場合、本来であればその工場のメインブレーカーが落ちて、その工場内だけが停電するのが理想です。

しかし、事故の規模が大きかったり、保護協調(遮断のタイミングのコントロール)がうまくいかなかったりすると、トラブルの負荷が電力会社側の配電線にまで逆流してしまいます。すると、電力会社側の安全装置が働き、同じ配電線から電気をもらっている周囲の無関係な住宅やオフィス、病院、信号機まで巻き込んで一斉に停電させてしまいます。これが社会問題にもなる「波及事故」です。

PASは、需要家の敷地と電力会社の電線の「境界線(責任分界点)」に設置され、敷地内で事故が起きた瞬間に回路を切り離し、事故を自社内だけで食い止めるための「防波堤」の役割を担っています。

2. 「無方向性PAS」の仕組みと限界

かつて日本の高圧受電設備で広く使われていたのが「無方向性PAS」です。

仕組み

無方向性PASには、ZCT(Zero-phase Current Transformer:零相変流器)というセンサーが内蔵されています。電気は通常、行き(往路)と帰り(復路)の電流が同じ量であれば、お互いの磁界を打ち消し合ってゼロになります。しかし、地絡(漏電)が発生するとバランスが崩れ、漏れた分の電流(零相電流:$I_0$)が発生します。

無方向性PASは、このZCTが「あ、どこかで電気が漏れてバランスが崩れたな($I_0$ を検知したな)」と判断した瞬間に、スイッチを自動で開放(トリップ)します。

メリット

  • 構造がシンプルであるため、機器本体の価格が比較的安価。

  • 設置や配線が容易。

致命的な弱点:もらい事故(不必要動作)

「無方向性」という名前の通り、このタイプは電流が流れてきた「方向」を判別できません。

これが何を意味するかというと、「自分の敷地外(近隣のビルや電力会社の電線)で発生した地絡事故」であっても、自社のZCTがその電流の乱れを検知してしまい、自社のPASが勘違いして勝手に落ちてしまうのです。

これを「もらい事故」「不必要動作」と呼びます。自社の中は何のトラブルも起きていないクリーンな状態なのに、隣の工場で起きた事故のせいで自社が停電してしまうという、非常に厄介な現象を引き起こすのが無方向性の最大の弱点でした。

3. 「方向性PAS」の仕組みと圧倒的な安心感

無方向性の「もらい事故」という弱点を克服するために開発され、現在のデファクトスタンダード(事実上の標準)となったのが「方向性PAS」です。

仕組み

方向性PASは、漏電の量(零相電流:$I_0$)を測るZCTに加え、電圧の歪み(零相電圧:$V_0$)を測定するZPD(Zero-phase Potential Device:零相電位検出器)というセンサーを搭載しています。

電気の波(位相)を解析すると、事故が「自分の敷地側(構内)」で起きた場合と、「電力会社側(構外)」で起きた場合とでは、電圧($V_0$)と電流($I_0$)のズレ方(位相関係)が真逆になります。

方向性PASに接続されたSOG制御装置(コントローラー)は、この電圧と電流の「位相(タイミングのズレ)」を瞬時に計算し、「この事故はうちの敷地内から出たものだ」と確信した時だけ、スイッチを落とします。

  • 構内(自社)の事故: 電圧と電流の位相が「動作範囲」に入るため、PASを遮断して波及事故を防ぐ。

  • 構外(他社・電線)の事故: 電圧と電流の位相が「不動作範囲」になるため、PASは無視して電気を流し続ける。

メリット

  • もらい事故の完全な防止: 他所のトラブルで自社が停電するリスクをゼロにできる。

  • 高い信頼性: 現代の複雑な高圧ネットワークにおいて、安定した操業を維持できる。

デメリット

  • 無方向性に比べ、ZPDなどのセンサーや精密な制御装置が必要なため、初期導入コスト(部材費)がやや高い。

4. 無方向性と方向性の比較まとめ

両者の違いをわかりやすく表にまとめました。

項目

無方向性PAS

方向性PAS

内蔵センサー

ZCT(零相変流器)のみ

ZCT(零相変流器) + ZPD(零相電位検出器)

判断基準

漏電の「量(電流値)」だけ

漏電の「量(電流値)」+ 「方向(電圧との位相)」

もらい事故のリスク

あり(他所の事故で自社が停電する)

なし(自社の事故のみに的確に反応)

本体価格

比較的安価

やや高価

現代の採用状況

過去の遺物(リプレイス対象)

現在の主流・標準仕様

5. なぜ昔は無方向性で、今は方向性が主流なのか?時代背景を探る

「そんなに方向性が優秀なら、なぜ昔から方向性にしなかったのか?」という疑問が湧くかもしれません。そこには、日本の電気利用環境の変化と、テクノロジーの進化という背景があります。

背景①:ケーブルの普及と「対地静電容量」の増大

昔の工場やビルは、電柱から敷地内の受電設備まで、空気中に電線を張る「架空(かくう)電線」で電気を引き込むことが多くありました。

しかし、現代の都市開発や美観維持、安全対策にともない、電気を地中の「高圧ケーブル」で引き込むケースが爆発的に増えました。

実は、高圧ケーブルは電線に比べて「対地静電容量(コンデンサ成分)」が非常に大きいという特性を持っています。この静電容量が大きい建物(ケーブルが長い建物)で無方向性PASを使用すると、他所で地絡事故が起きた際に、自社のケーブルに蓄えられていた電気が一気に外へ流れ出し、無方向性PASのZCTがそれを「自社の地絡だ!」と誤検出してしまう確率が跳ね上がります。

つまり、インフラの近代化(ケーブル化)が進むにつれて、無方向性では使い物にならなくなってしまったのです。

背景②:電子技術の進歩とコストダウン

かつては、電圧と電流の「位相」をリアルタイムで正確に計測・演算する装置(SOG制御装置)は、非常に高価で大型なものでした。そのため、どうしてもコストを抑えたい小規模な需要家は無方向性を選ばざるを得ませんでした。

しかし、マイクロコンピュータや半導体技術の進歩により、現代のSOG制御装置は小型化・高性能化し、価格も大幅に下がりました。方向性を選ぶ金銭的ハードルが下がったことも、普及を後押ししました。

6. 現役の無方向性PASを使い続けるリスクと更新のすすめ

現在、新設される高圧受電設備で無方向性PASが選ばれることはまずありません。各電力会社の供給規程や、電気技術指針でも、原則として「方向性」の設置が義務付け、あるいは強く推奨されています。

しかし、数十年前から稼働している古い工場や雑居ビルなどでは、今でも当時の「無方向性PAS」が現役で動いているケースが珍しくありません。これは設備管理上、非常に大きなリスクをはらんでいます。

リスク1:業務停止(機会損失)の発生

前述の通り、隣の敷地で起きた事故によって自社のラインが止まったり、オフィスのサーバーがダウンしたりします。復旧するまでは原因調査(自社に原因があるのか外にあるのかの切り分け)が必要となり、多大な時間と損害が発生します。

リスク2:機器自体の経年劣化による不動作

PASの寿命は、一般社団法人 日本電機工業会(JEMA)の指針で約10年〜15年とされています。電柱の上で年中、雨風や紫外線、激しい温度変化に晒されているため、目に見えないスピードで劣化が進みます。

古い無方向性PASは、もらい事故で動くだけならまだしも、「本当に自社で重大な事故が起きた時に、老朽化のせいで動かない(遮断できない)」という最悪の事態(波及事故の発生)を引き起こす恐れがあります。

もし自社が原因で波及事故を起こした場合、近隣企業への損害賠償や、電力会社からの電気供給停止、企業の社会的信用の失墜など、数千万円から億単位の損失につながることもあります。

7. まとめ:安全と安心への投資

PASの「無方向性」と「方向性」の違いは、単に価格やセンサーの数の違いに留まりません。それは「周囲の環境変化に惑わされず、自社の安全をいかに高い精度で守れるか」という、信頼性の決定的な違いです。

  • 無方向性: 周囲の事故に巻き込まれるリスクが高く、現代のケーブル社会には適さない「過去の技術」。

  • 方向性: 的確に自社の事故だけを検知し、安定操業と波及事故防止を両立する「現代の標準技術」。

電気主任技術者や設備の保安点検を行う業者から、「そろそろPASの更新時期です。次は方向性にしましょう」と提案された際は、コスト面だけで判断せず、その背景にある絶大な安心感と社会的責任を考慮し、ぜひ方向性PASへの更新を選択してください。

一見すると地味で目立たない電柱の上の箱ですが、これこそが現代の高度な電気社会を足元から支える、最も重要な「守護神」なのです。


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