
高圧VTとCTをマスターする完全ガイド
高圧VT(計器用変圧器)とCT(変流器)は、高電圧・大電流を計器で測定可能な安全な値(一般に110V・5A)に変換する「通訳者」の役割を担います。 選定時は、使用目的に応じた確度階級、接続機器の総容量を示す定格負担(VA)、事故時の耐性を示す過電流定数の確認が不可欠です。また、VT比とCT比を乗じた「乗率」は、正確な電力管理の要となります。運用上の最大禁忌はCT二次側の開放であり、高電圧発生による感電・火災リスクを防ぐため、点検時は必ず短絡させる徹底した安全管理が求められます。
電気の「通訳者」:高圧VTとCTをマスターする完全ガイド
1. なぜVTとCTが必要なのか?
高圧受電設備(キュービクルなど)において、私たちが扱う電圧は一般的に6600Vという極めて高いものです。これをそのまま電流計や電圧計に流すと、計器は一瞬で焼き切れてしまいますし、何より危険すぎて人間が近づくこともできません。
そこで必要になるのが、**「高圧の電気を、計器が扱える安全な低圧・小電流に変換する装置」**です。
VT(Voltage Transformer):計器用変圧器
高い電圧を、使いやすい低い電圧(一般に110V)に変換します。
CT(Current Transformer):変流器
大きな電流を、使いやすい小さな電流(一般に5A)に変換します。
いわば、VTとCTは「高圧という外国語」を「計器が理解できる日本語」に変換してくれる通訳者のような存在なのです。
2. 商品の仕組みと役割
VT(計器用変圧器)
VTは、高圧回路の電圧を測定するために使用されます。
役割: 6600Vなどの高電圧を、一律に110Vに下げます。
見た目: 絶縁のためにエポキシ樹脂などで固められた、ずっしりとした重みのある機器です。
ポイント: VTは「電圧」を見るものなので、回路に対して並列に接続します。
CT(変流器)
CTは、回路に流れている電流の大きさを測定するために使用されます。
役割: 数十〜数百アンペア流れている電流を、一律に5A(あるいは1A)に下げます。
見た目: ドーナツのような形(貫通形)や、四角い箱のような形があります。
ポイント: CTは「電流」を見るものなので、回路に対して直列に接続します。
3. 比率の算出方法と「乗率」の考え方
VTとCTを導入すると、メーター(電流計・電圧計)に表示される数値と、実際に流れている数値に差が生じます。この差を補正するために必要なのが**「比(比率)」**の計算です。
VT比(変圧比)の算出
VTが6600Vを110Vにする場合、その比率は以下のようになります。
6600 ÷ 110 = 60
つまり、VT比は**「60」**です。電圧計の針が110Vを指していたら、実際の回路には 110 × 60 = 6600V 流れていることになります。
CT比(変流比)の算出
例えば、100Aの電流を5Aに変換するCTの場合。
100 ÷ 5 = 20
この場合のCT比は**「20」**です。電流計が5Aを指していれば、実際には100A流れていると判断します。
電力測定における「乗率」
電力量計(ワットメーター)で実際の使用量を出すには、VT比とCT比の両方を掛け合わせる必要があります。これを**合成変成比(乗率)**と呼びます。
計算例:
VT比:60(6600/110V)
CT比:20(100/5A)
乗率 = 60 × 20 = 1200
メーターの指示値が「1」増えたら、実際には「1200kWh」消費したことになります。この乗率を間違えると、電気代の請求やデマンド管理に致命的なミスが生じるため、最も注意すべき数値です。
4. 【深掘り】なぜ「二次側」の数値が決まっているのか?
VTは110V、CTは5A。なぜ世界中でこの中途半端な数字が標準になっているのでしょうか。
それは、**「計器の共通化」**のためです。
受変電設備には、メーカーも種類も異なる様々な計器(電流計、電圧計、電力計、保護継電器)が並んでいます。もしCTごとに「このCTは出力3A」「こっちは10A」とバラバラだったら、それに合わせるメーターも特注品だらけになってしまいます。
「どんなに大きな電流(例:2000A)が流れていても、変換後は必ず5Aにする」というルールがあるからこそ、私たちは既製品のメーターをポンと取り付けるだけで、中身の文字盤(目盛)だけを書き換えれば済むようになっているのです。これは、電気設備のメンテナンス性を高めるための、先人たちの素晴らしい知恵と言えます。
5. 選定における重要ポイントと注意点
VTやCTを選定する際、単に「電圧と電流が合っていれば良い」というわけではありません。以下のポイントを必ずチェックしてください。
① 確度階級(精度)
計器用変成器には「どれくらい正確か」を示す階級があります。
0.5級: 取引・課金用(電力会社との取引など)
1.0級: 一般計測用(社内のモニター用など)
3.0級: 保護継電器用(遮断器を飛ばすための信号用)
目的に応じて適切な精度を選ばないと、誤差が大きくなったり、法的に認められなかったりします。
② 定格負担(VA)の落とし穴
「負担」とは、VTやCTから見て「どれだけの重荷(計器や電線の抵抗)を背負えるか」という能力値です。
例えば、定格負担15VAのCTに、古いアナログメーターとデジタル計、さらに遠くの盤まで引っ張った長い電線を繋いだ場合、これらが合計で20VAの負荷になっていたとします。すると、CTは「重すぎて正確な数値を送れない!」と悲鳴を上げます。結果として、実際の電流よりも低い値が表示されるといった誤差が生じます。
③ 過電流定数(n)の重要性(CTの場合)
事故時に短絡電流(大電流)が流れたとき、CTがその電流を正しくリレーに伝えないと、遮断器が作動しません。
n > 10(一般計測用): 通常の計測には十分。
n > 20(保護継電器用): 事故時の巨大な電流も飽和せずに伝えられる。
安価だからと計測用を保護回路に使うと、いざという時に検知できないリスクがあります。
6. 実務での最大禁忌:CT二次側の開放(オープン)
これは運用・メンテナンス上、最も重要な注意点です。CTの二次側(計器側)は、一次側に電気が流れている間、絶対に開放してはいけません。
なぜそんなに危ないのか?
CTは、一次側の電流によって発生する磁束を、二次側の電流で打ち消し合うことでバランスを保っています。もし二次側を外すと、打ち消し役がいなくなり、鉄心の中に猛烈な磁束が溜まります。これが二次端子に数千ボルトの電圧を発生させ、パチーン!と火花が飛んだり、絶縁が焼けて煙が出たり、最悪の場合は感電・火災事故に繋がります。
【現場での対策】
試験などで計器を外す際は、必ず**「テストプラグ」や「短絡用端子」**を使って、回路をバイパス(短絡)させてから作業します。
「CTの二次側は、常に電気が流れる道を作っておく」という感覚を、現場の共通認識にすることが事故防止の第一歩です。
7. 現場で役立つ実践的な選定テクニック
実際の現場でVTやCTを選定・交換する際に、知っておくと得をする知識を補足します。
CTの「定格一次電流」の決め方
CTの一次側電流(例えば100A/5Aの「100A」の部分)はどう決めるべきでしょうか。一般的には、**「その回路の最大負荷電流の1.2倍〜1.5倍程度」**にするのがセオリーです。
あまりに大きすぎると(例えば10Aしか流れない場所に500AのCTを置く)、メーターの針がほとんど動かず、計測誤差が大きくなります。逆に小さすぎると、ピーク時に振り切れてしまいます。
VTの接続方式(V結線など)
高圧三相三線式の場合、VTは2台使って「V結線」にすることが一般的です。これにより、3本ある電線のうち全ての相間電圧を測定できます。交換時は、1台だけ壊れたのか、2台セットで更新すべきなのかを、製造年数(経年劣化)を見ながら判断しましょう。
8. まとめ:設備管理の「目」を守るために
高圧VTとCTは、巨大なエネルギーを人間が扱えるサイズに「翻訳」してくれる、受変電設備の要です。
VTは電圧を110Vに、CTは電流を5Aに落とす「通訳者」である。
比率(乗率)の計算を間違えると、管理数値のすべてが狂う。
確度階級、定格負担(VA)、過電流定数の3点を、目的に合わせて選ぶ。
CTの二次側開放は、命に関わる禁忌である。
VTやCTが壊れたり、選定を間違えたりすることは、人間で言えば「視力が狂う」のと同じです。いくら高機能なデマンドコントローラーを導入しても、その「目」が不適切であれば意味がありません。
一見地味な箱に見えるVTとCTですが、その裏にある数値の意味を理解し、適切に選定・管理することで、設備の安全と信頼性は劇的に向上します。更新時には必ず銘板を確認し、余裕を持った設計を心がけましょう。
前田 恭宏
前田です
