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電力会社による借室のすべて“電気の「通り道」を貸し出す?”

電力会社による借室のすべて“電気の「通り道」を貸し出す?”

26/03/17 07:58

中大規模のマンションやビルを建てる際、電力会社に建物の一部を貸し出し、受変電設備を設置してもらうことを「借室(しゃくしつ)」と呼びます。 最大のメリットは、高額な設備の設置・メンテナンス費用、法定点検の手間をすべて電力会社に一任できる点です。さらに、オーナーには電力会社から借室料が支払われます。一方で、賃貸スペースが減ることや、設備の振動・騒音への配慮が必要な点はデメリットです。維持管理のコストと手間を「アウトソーシング」できる合理的な仕組みとして、設計時に慎重に検討すべき要素です。

1. そもそも「借室」とは何か?

通常、一般家庭の電気は電柱にあるトランス(変圧器)を介して供給されます。しかし、大規模なマンションやオフィスビルなど、一度に大量の電気を使用する建物の場合、電柱のトランスだけでは容量が足りません。

そこで、「建物の一部を電力会社に貸し出し、そこに電力会社所有の受変電設備(トランスなど)を設置してもらうこと」を借室と呼びます。

なぜ「部屋を貸す」必要があるのか

電気は発電所から高い電圧で送られてきますが、私たちがコンセントで使うには 100V200V に電圧を下げなければなりません。この「電圧を下げる作業」を建物の内部で行うために、専用のスペース(借室)が必要になるのです。


2. 借室が設置される基準

すべての建物に借室が必要なわけではありません。一般的に、以下の条件に該当する場合に電力会社から設置を要請されることが多くなります。

  • 契約電力の大きさ: 一般的に、受電容量が 50kW 以上の「高圧受電」が必要な規模の建物。

  • 建物の規模: おおよそ延床面積が 1,000--2,000m^2 を超えるオフィスビルや、30戸〜50戸程度を超える中大規模マンション。

  • 周囲の電力インフラ状況: 付近の電柱に空き容量がない場合、小規模でも借室を求められるケースがあります。


3. 借室の仕組みと「受電方式」の違い

借室を理解する上で避けて通れないのが、「高圧一括受電」と「低圧各戸受電(借室方式)」の違いです。

① 借室方式(低圧各戸受電)

  • 電力会社が建物の1階や地下の1室を「借り」、そこに自社の設備を置きます。

  • 管理責任: 設備は電力会社のものなので、メンテナンスや故障対応はすべて電力会社が行います。

  • 契約: 入居者は個別に電力会社と契約します(一般的な住宅と同じ)。

② 自用電気工作物(キュービクル設置)

  • 借室を作らず、オーナー自身が「キュービクル」という受電設備を設置・所有するパターンです。

  • 管理責任: オーナーが電気主任技術者を選任し、定期点検のコストを負担する必要があります。

  • 契約: 建物全体で一括受電し、オーナーが入居者に電気代を請求する形が一般的です。


4. 借室を設けることのメリット

オーナー側にとって、借室契約にはいくつかの明確な利点があります。

  1. 維持管理コストが「ゼロ」
    借室内の設備(トランスや遮断器など)は、あくまで電力会社の資産です。そのため、設備の交換費用、法定点検の費用、故障時の修理代はすべて電力会社が負担します。これは長期的なビル経営において非常に大きなコスト削減になります。

  2. 電気主任技術者の選任が不要
    自前で高圧受電設備(キュービクル)を持つ場合、法律で「電気主任技術者」の選任や外部委託が義務付けられます。借室方式であれば、電力会社の管理責任となるため、この手間とコストを省けます。

  3. 借室料(賃料)が入る
    「貸す」という形をとるため、電力会社からオーナーに対して借室料(賃借料)が支払われます。金額は地域や面積、自治体の基準によりますが、固定資産税分を補填する程度の少額であるケースが多いものの、副収入となります。


5. 知っておくべきデメリットとリスク

一方で、慎重に検討すべき点も存在します。

  1. 有効面積(賃貸面積)の減少
    建物の貴重なスペースを電力会社に提供するため、その分、店舗や駐車場として貸し出せる面積が減ってしまいます。特に駅前などの坪単価が高いエリアでは、電力会社からの借室料よりも、店舗として貸し出した時の収益の方が高くなる「機会損失」が発生します。

  2. 建築コストへの影響
    借室には厳しい設置基準があります。

    • 防火区画としての構造(壁の厚さや扉の仕様)

    • 換気設備の設置

    • 機器搬入のための経路確保

    これらを設計段階で盛り込む必要があり、建築単価が上昇する要因となります。


6. 契約から設置までの流れ

  1. 電力協議: 設計段階で電力会社と「どの程度の電気が必要か」を打ち合わせます。

  2. 借室要請: 電力会社から「借室を設置してほしい」という正式な依頼が来ます。

  3. 設計・承認: 借室の場所、広さ、搬入ルートを確定させ、図面の承認を受けます。

  4. 借室契約の締結: 賃貸借契約を結びます。期間は20年などの長期間になるのが一般的です。

  5. 工事・竣工: 建物完成に合わせて電力会社が設備を搬入し、送電を開始します。


7. 「借室」に関するよくあるトラブルと注意点

  • 騒音・振動への配慮
    トランスは稼働時に「ブーン」という微細な唸り音(励磁振動)を発します。借室の真上が住居ユニットの場合、深夜にこの音が響いてクレームになることがあります。設計時に防振ゴムの設置や、居室と隣接させない配置を検討することが不可欠です。

  • 契約期間の長さ
    一度貸し出すと、建物を解体するまで半永久的に貸し続けることになります。途中で「やっぱりあそこを駐輪場にしたいから返して」というわけにはいきません。将来のリノベーション計画なども踏まえた配置検討が重要です。

  • 借室料の相場
    借室料は交渉で決まるものではなく、多くの場合、電力会社が定める「固定資産税相当額+α」という算定式で提示されます。過度な期待は禁物ですが、契約内容(支払日や更新時期)はしっかり確認しましょう。


まとめ:借室は「賢いアウトソーシング」

電力会社による借室は、一見すると「スペースを奪われる」というネガティブな側面が目立ちますが、実態は「電気設備というリスク資産を電力会社に丸投げできる」という強力なメリットを持っています。

特に、メンテナンスコストの高騰が予想されるこれからの時代、自前で受電設備を持つリスクを避けたいオーナーにとって、借室方式は非常に合理的な選択肢と言えるでしょう。
建物の資産価値を維持しつつ、手離れの良い管理を目指すなら、「借室」という選択肢をポジティブに捉え、設計初期段階から電力会社と密なコミュニケーションを取ることをお勧めします。


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