
低圧と高圧の電力契約:基準とメリット・デメリット
低圧契約は100~200Vで受電し、初期費用が安く手続きも簡単だが、電気料金単価が高く容量に限界がある。一方、高圧契約は6kVで受電し変電設備が必要なため初期投資や維持費がかかるが、電気料金が割安で大規模設備にも対応し電圧も安定する。一般に契約電力50kW未満は低圧、50kW以上は高圧が対象。事業規模、初期費用、電力使用量、設備の安定性、将来の拡張性を踏まえて契約形態を選ぶことが重要である。
低圧と高圧の電力契約:基準とメリット・デメリット
―事業者が知っておくべき電力契約の基本―
電力契約は大きく 「低圧契約」 と 「高圧契約」 に分かれます。普段あまり意識する場面は少ないものの、店舗や工場、オフィスビルなどの事業運営において、どちらに該当するかによって電気料金の仕組みや必要な設備、維持コストが大きく変わります。本コラムでは、低圧と高圧の境界基準、各契約のメリット・デメリット、導入時のポイントなどを整理します。
■ 1.低圧契約と高圧契約の基準とは?
● 低圧契約とは
一般的に 100V または 200V で受電する契約 を指します。
家庭と同様の電圧体系を使うため、商店・飲食店・小規模オフィスなど比較的小規模な電力需要をもつ事業者が対象です。
目安となる基準
契約電力:50kW未満が一般的
受電方法:低圧で直接受電(柱上トランスから直接引き込み)
主な対象:小規模店舗、コンビニ、学習塾、小規模事務所など
工事:比較的簡易で、初期コストが小さい
● 高圧契約とは
6,000V(6kV)で受電し、自家用変圧器で100~200Vに変換して利用する方式。
使用電力量が大きい工場や大型店舗、ビルなどが採用します。
基準の目安
契約電力:50kW以上
受電方法:6kVの高圧で受電し、敷地内のキュービクル(変電設備)で降圧
主な対象:工場、ホテル、大型飲食店、商業施設、物流倉庫、病院など
工事:変電設備が必要で、初期コスト・保守コストが発生
■ 2.低圧契約のメリットとデメリット
● 【メリット1】初期コストが安い
低圧は高圧と違い、キュービクル(変電設備)を設置する必要がありません。
電気工事はコンパクトで、導入のハードルが低く、開業段階でも費用を抑えられます。
● 【メリット2】メンテナンス負担が少ない
変電設備を持たないため、
点検費用
保安管理者の選任
年次点検
法令に基づく維持管理
などの負担が発生しません。
● 【メリット3】契約手続きが簡単
低圧は電力会社や小売電気事業者との契約だけで利用できます。
設備点検などの法的義務も高圧ほど重くないため、運用も非常にシンプルです。
● 【デメリット1】電気料金単価が高い傾向
低圧契約は高圧契約と比較すると、
電力量料金・基本料金ともに単価が高め に設定されています。
使用量が大きくなるほど割高感が増すため、中規模以上の事業者にとってはコスト負担が重くなることがあります。
● 【デメリット2】供給容量に限界がある
低圧では大量の機器を同時に使用すると契約容量の上限に近づき、
ブレーカーが落ちる
設備増強が必要
といった問題が起こります。
多くの空調・厨房設備を使用する店舗では、容量不足が課題となることもあります。
● 【デメリット3】電気の品質(電圧の安定性)は高圧より劣る
商店街など同じ低圧系統に複数の店舗がつながっている場合、
他事業者の使用状況によって電圧が変動することがあります。
大きな影響は少ないものの、精密機器を扱う業種では要注意です。
■ 3.高圧契約のメリットとデメリット
● 【メリット1】電気料金単価が安い
高圧契約は大量の電力を安定的に使う前提のため、
低圧よりも単価が低く設定 されています。
大規模事業者にとっては、電気代の削減効果が非常に大きいです。
● 【メリット2】電圧が安定している
高圧で受電し自社で変圧するため、
電圧が落ちにくい
安定した電力供給を確保できる
という特長があります。
工場ラインや医療機器など、精密で安定が求められる設備と相性が良いです。
● 【メリット3】大規模設備でも十分な容量を供給可能
高圧は受電容量が大きく、
大型空調
冷凍設備
加工機械
大規模照明
など高負荷の設備を多く利用する場合に適しています。
● 【デメリット1】初期導入コストが高額
高圧契約の最大のデメリットは、変電設備の設置費用が発生することです。
キュービクルの価格は規模によりますが、
数百万円~1,000万円以上 になるケースもあります。
● 【デメリット2】維持管理コストがかかる
高圧受電設備は「自家用電気工作物」として扱われ、
法令によって厳密な保守が義務付けられています。
主なコスト
年次点検費用
月次点検(機器巡視)
保安管理者(外部委託の場合の費用)
部品交換・設備更新
特に老朽化した設備は更新コストが重く、長期運用を考える上で大きな検討項目です。
● 【デメリット3】停電時の復旧に時間がかかる可能性
高圧設備が故障した場合、専門資格者による対応が必要となり、
低圧のようにブレーカーを上げて終わりというわけにはいきません。
事業継続性(BCP)の観点で、予備設備や保守契約も検討する必要があります。
■ 4.どちらを選ぶべきか?判断のポイント
① 契約電力(使用量)
50kW未満 → 多くは低圧で問題なし
50kW以上 → 高圧が必要
特にエアコン・冷凍機器・調理機器を多く使う業態は、高圧のほうが結果的に電気料金を抑えられます。
② 初期投資の可否
開業直後で資金が限られる ⇒ 低圧で始める
長期的運用を見据える ⇒ 高圧の方が総コストは安くなることも
③ 設備の安定稼働の必要性
医療・製造など電圧不安定が許されない業種
→ 高圧が望ましい
④ 将来的な店舗拡張・設備増設の可能性
設備の拡張余地を考えると、高圧のほうが柔軟性があります。
低圧で容量不足が続く場合、途中で高圧へ切り替えるケースもあります。
■ 5.まとめ:低圧と高圧は「規模」と「コスト」で選ぶ
低圧と高圧には明確な境界基準がありますが、単純に契約電力だけではなく、
初期費用
月々の電気料金
設備維持コスト
安定性
将来の拡張性
といった複数の要素を総合的に判断する必要があります。
低圧は「手軽で導入しやすい」、
高圧は「コスト効率と安定性に優れる」、
というのが基本的な特徴です。
業態や使用設備、将来の見通しに応じて最適な契約形態を選択することで、
電気代の削減だけでなく、事業の安定運営にもつながります。

前田 恭宏
前田です
