
敷地拡張や設備増強の際、1企業1契約の原則のもとでキュービクルを2台設置し、「主変電(第一)」「副変電(第二)」として運用するケースがあります。 広大な敷地では、配電場所を2地区に分割することで2次側配線を短縮し、コスト削減と管理の効率化を図れます。また、既存設備のスペース不足で増設が必要な場合は、新設側に送り開閉器を設けて「主変電」とし、既設を「副変電」にする構成が基本です。EV充電器用などの例外を除き、1契約内でこれらをつなぐ高度な設計・施工には、専門知識を持つプロへの相談が不可欠です。
企業の事業拡大や工場のライン増設、敷地の拡張などに伴い、「電気の容量が足りなくなった」「新しい建屋へ効率よく送電したい」といった課題に直面することがあります。高圧受電を行っている需要家様において、その心臓部となるのが「キュービクル(高圧受電設備)」です。
通常、キュービクルは1つの敷地に1台というイメージが強いかもしれませんが、実は「1つの企業(1契約)で2台のキュービクルを運用する」というケースは珍しくありません。本記事では、なぜ1つの企業で2台のキュービクルが必要になるのか、その仕組みやメリット、「主変電(第一)」と「副変電(第二)」の関係性、そして電力会社との契約ルールについて、電気のプロの視点から分かりやすく解説します。
「電気の容量を増やすだけなら、今あるキュービクルを大きくすればいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、企業の敷地環境や運用の歴史によって、あえて「2台に分ける」ほうが圧倒的にメリットが大きいケースが存在します。主な理由は以下の2つに集約されます。
① 敷地が広く、1台からの配線ではコストと管理に限界があるため
工場や倉庫、学校、大型商業施設など、敷地が広大な需要家様の場合、キュービクルから各設備(負荷)までの距離が非常に長くなります。
太いケーブル(2次側配線)が何本も必要になり、工事費用が跳ね上がる
距離が長くなるほど電圧降下(電気が途中で弱くなる現象)が起き、設備の誤動作の原因になる
配線ルートが複雑になり、万が一の断線やトラブル時の原因特定(メンテナンス)が難しくなる
ここで、敷地内にもう1台のキュービクルを設置し、配電場所を2つの地区に「分割」するとどうでしょうか。それぞれの建屋やエリアの近くで電圧を下げて供給できるため、配線は短く済み、コストも抑えられ、管理の手間も劇的に効率化されます。
② 既存設備の増強時、スペースの問題で「増設」せざるを得ないため
「最初は1台で足りていたが、新しい機械を導入することになり、電気の容量を増やしたい」というケースです。既存のキュービクル内部を改造してトランス(変圧器)などを追加できればスマートですが、現実には「キュービクルの中にこれ以上新しい機器(送り開閉器など)を収めるスペースがない」ということがほとんどです。
無理に中身を詰め込むことは安全基準上できませんし、キュービクルごと丸ごと一式を新品の大型サイズに交換するとなると、莫大な費用と長時間の停電が必要になってしまいます。そのため、「既存のものはそのまま活かし、横にもう1台新しいキュービクルを増設する」という選択肢が最も現実的かつ経済的になります。
キュービクルを2台設置する場合、電力会社から引き込んだ高圧の電気(一般的には6,600V)をどのように2台に分けるかが重要になります。ここで登場するのが「主変電(第一キュービクル)」と「副変電(第二キュービクル)」という概念です。
特に、先ほど挙げた「設備増強により、もう1台を後から追加する」というケースでは、電気の流れを整理するために、新旧の役割を入れ替える手法が基本となります。
電力会社から高圧ケーブルを引き込むポイント(責任分界点)は、原則として1箇所です。そこからまず、新しく設置した「新設キュービクル」に電気を引き込みます。
新設キュービクルを「主変電(第一)」とする。余裕を持った設計ができるため、電力会社からの電気を最初に受けるメインの役割を持たせます。送り開閉器(ブレーカーやLBSなど)を設置します。
既設キュービクルを「副変電(第二)」へ変更。古いキュービクルはスペースに余裕がなく送り開閉器などを追加できないため、「サブ(第二)」へ変更し、新設された第一キュービクルから高圧の電気を分けてもらう形をとります。
このように、新設を「親(第一)」、既設を「子(第二)」という関係性に組み替えることで、大がかりな既存キュービクルの大改造を行うことなく、安全かつスマートに2台のキュービクルを連携させることができるのです。
「それなら、主変電や副変電などとややこしい回線接続をせず、電力会社からそれぞれのキュービクルに直接、別々に電気を引き込めばいいのでは?」そう疑問に思われるのは当然です。しかし、日本の電気事業法や電力会社の供給約款(ルール)には、大きな原則が存在します。それが「1需要場所(1企業・1敷地)につき原則1契約」というルールです。
電力会社は、1つの敷地に対して1つの契約(1つの引込線)で電気を供給することを基本としています。もし企業が自由に「あっちの建屋用」「こっちの工場用」と何本も高圧線を引き込んでしまうと、地域の電線網の管理が複雑になり、災害時の安全確保や停電時の復旧作業に大きな支障をきたすからです。
そのため、どれだけ敷地が広くても、キュービクルが何台あろうとも、「電気の入り口(メーター)は1箇所にまとめ、そこから先(敷地内)の分配は需要家側の責任で行ってください」というのがルールとなっています。これが、前述した「第一変電から第二変電へ高圧線で渡す」という構成が必要不可欠になる最大の理由です。
【例外】別々に引き込めるケース
原則として1契約ですが、近年では時代の変化や特定のニーズに合わせて、いくつかの「特例(例外規定)」が認められるようになっています。
EV充電器専用の別引き込み
EVの急速充電器は非常に大きな電力を消費するため、既存の工場の電力契約と一緒にすると、工場の稼働に影響が出たり、契約電力が跳ね上がって基本料金が高くなったりするリスクがあります。そのため、国や電力会社の普及後押しもあり、「EV急速充電設備のためだけであれば、既存の契約とは別に、もう1本高圧(または低圧)を引き込んでも良い」という例外措置が認められるケースが増えています。
その他の例外
完全に独立した別棟の社宅がある場合や、生産ラインの機密保持・保安上の理由でどうしても系統を分けなければならない特別な理由があり、電力会社が認めた場合には、例外的に別契約が許可されることがあります。ただし、これらはあくまで「例外」であり、通常の設備増強においては、やはり1契約の中で主変電・副変電を構築するのが王道です。
キュービクルの2台運用(主副変電システム)は非常に合理的ですが、計画やメンテナンスを怠ると、思わぬトラブルを招くことがあります。導入・運用時には以下の点に注意が必要です。
① 保安管理責任とメンテナンスコスト
キュービクルが2台になるということは、高圧機器の数が単純に増えることを意味します。電気主任技術者による毎月の点検や、定期的な年次点検(全電気を止めて行う点検)の対象設備が増えるため、保安管理の委託費用や、将来的な機器更新(寿命による交換)のメンテナンスコストは増加します。増設を検討する際は、初期の工事費用だけでなく、維持管理費も含めた長期的なコストシミュレーションが必要です。
② 保護協調(遮断器の連動設定)の重要性
主変電(第一)と副変電(第二)がつながっている場合、もし副変電側でショートなどの電気事故が起きた際、副変電のブレーカーだけが落ちるように設定(保護協調)しておかなければなりません。この設定が正しく行われていないと、副変電のトラブルなのに主変電のメイン遮断器まで一緒に落ちてしまい、「敷地内すべての設備が全停電してしまう」という最悪の事態(波及事故に近い状態)を招く恐れがあります。設計・施工には極めて高度な専門知識が必要です。
広い敷地での効率的な配電や、限られたスペースでの設備増強において、キュービクルを「主変電(第一)」と「副変電(第二)」に分けて運用することは、コスト・管理面ともに非常に優れた解決策です。
しかし、電力会社との複雑な契約交渉、限られたスペースでの最適な設計、そして安全を守るための高度な保護協調の設定など、クリアすべきハードルは少なくありません。自社の敷地や設備にとって「本当に2台運用がベストなのか」「どのような回路構成にすべきか」は、電気施工の現場を熟知した専門家に相談するのが一番の近道です。
適切な電気インフラを整え、安全で効率的な事業運営を実現しましょう。
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