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モールドトランス徹底解剖

モールドトランス徹底解剖

26/02/24 09:31

モールドトランスは、コイルをエポキシ樹脂で固めた変圧器です。最大の特長は、絶縁油を使用しないため火災リスクが極めて低く、ビルや地下街などの屋内設置に最適な高い防災性です。 油入トランスと比較すると、油の交換や劣化診断が不要でメンテナンスが容易な反面、導入コストは高めで、樹脂のひび割れや放熱性に注意が必要です。近年は待機電力を抑えた「アモルファス型」も普及しており、安全性と維持管理の効率化を重視する現代の電気設備において、標準的な選択肢となっています。

電気設備の進化を支える「樹脂の鎧」:モールドトランス徹底解剖

〜油入トランスとの決定的違いと、選定のためのインテリジェンス〜

私たちの生活や産業を支える電力。発電所から送られてくる高電圧の電気を、家庭や工場で使える電圧に変換するのが「変圧器(トランス)」の役割です。その中でも、現代のビル設備や工場において「標準」となりつつあるのが、今回スポットを当てるモールドトランスです。

一昔前までは、トランスといえば「油(絶縁油)」の中にコイルが浸かっているものが一般的でした。しかし、防災意識の高まりや環境負荷への配慮から、モールドトランスはその勢力を急速に広げています。今回は、この「樹脂で固められたトランス」の正体に迫ります。

1. モールドトランスとは何か?

まず、モールドトランスの最大の特徴は、その名の通り**「モールド(成形)」**されている点にあります。

従来のトランスがコイルを絶縁油で満たしたタンクに沈めていたのに対し、モールドトランスは高圧・低圧のコイルをエポキシ樹脂(プラスチックの一種)で真空注型し、カチカチに固めています。

いわば、繊細な電気回路を頑丈な樹脂の鎧でパッキングしたような構造です。この「油を使わない」というシンプルな変化が、電気設備の設計に革命をもたらしました。

2. 油入トランスとの決定的な違い:冷却と絶縁のアプローチ

モールドトランスを理解するために、ライバルである「油入(ゆにゅう)トランス」と比較してみましょう。

比較項目

モールドトランス

油入トランス

絶縁・冷却媒体

エポキシ樹脂+空気

絶縁油(鉱物油など)

防災性

極めて高い(自消性あり)

火災のリスクがある(可燃性)

メンテナンス

ほぼ不要(清掃のみ)

油の劣化診断・交換が必要

サイズ・重量

鉄心やコイルは重いが、油槽がない

油の分、容積が大きくなる傾向

設置場所

屋内(ビル・地下街・クリーンルーム)

屋外・専用の変電室

コスト

比較的高い

比較的安価

なぜ「油」を使わないことが重要なのか?

油入トランスに使用される絶縁油は、優れた冷却性能と絶縁性能を持っていますが、一点だけ大きな弱点があります。それは**「燃える」**ということです。万が一、内部短絡などで事故が発生した場合、油が噴き出して火災に繋がるリスク(火災延焼リスク)があります。

一方、モールドトランスに使用されるエポキシ樹脂は、火源がなくなれば自然に火が消える**「自消性」**を持っています。これが、不特定多数の人が集まるビルや、火気厳禁の工場でモールドトランスが指名買いされる最大の理由です。

3. モールドトランスのメリット:管理者の悩みを解決する

3つのポイント

① 圧倒的な防災・安全性

前述の通り、火災のリスクが極めて低いため、消防法上の規制が緩和されるケースがあります。特に地下室や高層ビルなど、避難が困難な場所においては、モールドトランス一択と言っても過言ではありません。

② メンテナンスの簡略化

油入トランスの場合、定期的な「油のサンプリング調査」や「耐圧試験」、さらには数年おきの「油のろ過・交換」が必要です。モールドトランスは、基本的に「埃を掃除するだけ」で済みます。人手不足が叫ばれる設備管理の現場において、この**「手間いらず」**はコスト以上の価値を生みます。

③ 耐湿・耐塵・耐薬品性

コイルが樹脂で完全に封じ込められているため、湿気や埃、腐食性ガスなどの外部環境に非常に強いという特性があります。トンネル内や化学工場など、過酷な環境下でも安定した性能を発揮します。

4. 知っておくべきデメリットと「弱点」

非の打ち所がないように見えるモールドトランスですが、当然ながらデメリットも存在します。導入後に「こんなはずじゃなかった」とならないための注意点です。

① 衝撃と振動に弱い(ヒートショック)

樹脂は硬い反面、急激な温度変化(ヒートショック)や物理的な衝撃によって**「クラック(ひび割れ)」**が発生することがあります。かつてはこれが最大の弱点でしたが、近年の技術進歩(樹脂の熱膨張率を銅やアルミに近づける技術)により、この問題は大幅に改善されています。

② 過負荷耐性が低い

油入トランスは、油が熱を循環させて逃がしてくれるため、一時的なオーバーロード(過負荷)に対して比較的寛容です。しかし、モールドトランスは固体で冷却を行うため、放熱性が油ほど高くありません。許容温度を超えると樹脂の劣化が急速に進むため、容量選定は慎重に行う必要があります。

③ 導入コストの高さ

製造工程において、真空状態で樹脂を注入する高度な技術を要するため、製品価格は油入トランスよりも高価になる傾向があります。

5. 現場のプロが教える「選定の極意」

では、実際にどちらを選ぶべきなのでしょうか?

  • モールドトランスを選ぶべきケース:

    • オフィスビル、商業施設、病院などの屋内施設。

    • メンテナンスコストを極限まで下げたい場合。

    • 火災予防条例などの制約が厳しい場所。

  • 油入トランスを選ぶべきケース:

    • 屋外設置(雨ざらしの場所)。

    • 初期投資を安く抑えたい場合。

    • 大規模な電力需要があり、過負荷運転の可能性がある工場。

6. 未来への展望:環境負荷と省エネ

最近では、モールドトランスのさらなる進化版として、鉄心に「アモルファス合金」を採用した**「アモルファスモールドトランス」**が注目されています。

トランスは電気を使っていなくても、常に「待機電力(無負荷損)」を消費しています。アモルファス合金を採用することで、このエネルギーロスを従来のモールドトランスからさらに約1/3〜1/5に低減できるのです。24時間稼働する設備において、この差は年間数十万円、数トンのCO2削減に繋がります。

結びに代えて

モールドトランスは、単なる「油のない変圧器」ではありません。それは、安全性、メンテナンス性、そして環境性能を高い次元で結実させた、現代社会のインフラに最適化されたデバイスです。

初期費用という「点」で見れば油入トランスに軍配が上がるかもしれませんが、ライフサイクルコストや安全という「線」で見れば、モールドトランスの優位性は揺るぎません。

あなたの施設の次回の更新時期、あるいは新設設計の際、この「樹脂の鎧」が持つポテンシャルをぜひ思い出してみてください。それは、未来の安全と効率への投資になるはずです。

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前田 恭宏
前田です

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