
私たちの社会を動かす二つの電気
交流と直流は、電気の流れ方の違いによって区別される。直流は電気が一方向に安定して流れ、電池や電子機器の制御に適している。一方、交流は流れる向きが周期的に変わり、電圧を簡単に変えられるため、発電所から家庭まで効率よく電気を送ることができる。この特性から、社会の電力インフラには交流が採用されてきた。家庭では交流が使われているが、スマートフォンやパソコン内部では交流を直流に変換して利用している。近年は再生可能エネルギーや電気自動車の普及により、直流の効率性が再評価されており、今後は交流と直流を用途に応じて使い分けることが重要になる。
私たちの社会を動かす二つの電気
― 交流と直流を基礎から未来までやさしく解説 ―
私たちの生活は、電気なしには成り立ちません。照明、冷暖房、通信、交通、医療、娯楽――現代社会のあらゆる場面で電気は使われています。しかし、その電気がどのような性質を持ち、どのように使い分けられているのかを深く考える機会は、意外と少ないのではないでしょうか。
電気には大きく分けて「交流(AC)」と「直流(DC)」という二つの種類があります。この違いは、単なる用語の違いではなく、電気の使い方、送られ方、さらには社会インフラの設計思想そのものに関わっています。本コラムでは、交流と直流の違いを基礎から丁寧に説明し、私たちの暮らしや未来との関係までを幅広く見ていきます。
電気の正体 ― 電子の動きがエネルギーになる
電気とは何かを一言で表すなら、「電子の移動によってエネルギーが運ばれる現象」です。物質の中にはマイナスの電気を持つ電子が存在し、これが動くことで電流が生まれます。
水道管の中を水が流れることで水車が回るように、導線の中を電子が流れることで、電球が光り、モーターが回ります。電気は目に見えませんが、「流れ」という考え方を持つと、その性質が理解しやすくなります。
そして、この電子の流れ方に注目すると、電気は「直流」と「交流」に分類されるのです。
直流(DC)― 一方向に流れ続ける安定した電気
直流の基本的な特徴
直流とは、電子が常に同じ方向に流れ続ける電気です。プラス極からマイナス極へと、向きが変わることはありません。この安定した流れが直流最大の特徴です。
直流をイメージするなら、一直線に流れる川が分かりやすいでしょう。流れが一定であるため、水の量や勢いを正確に制御しやすいのと同じように、直流は電圧や電流を細かくコントロールできます。
身近な直流の例
最も身近な直流の電源は電池です。乾電池、ボタン電池、スマートフォンやノートパソコンのバッテリーなど、蓄電できる電源はすべて直流を出力します。
また、電子回路や半導体は、基本的に直流で動作します。ICチップやCPUは、電圧の高低を「0」と「1」に見立てて情報処理を行うため、電圧が安定した直流でなければ正確に動作できません。
直流のメリットとデメリット
メリット
電圧・電流が安定している
電子回路や制御装置に向いている
蓄電池にためられる
デメリット
電圧の変換が難しい
長距離送電では損失が大きくなりやすい
この「電圧を変えにくい」という点が、直流が社会インフラとして使われにくかった大きな理由です。
交流(AC)― 向きを変えながらエネルギーを運ぶ電気
交流の基本的な仕組み
交流とは、電子の流れる向きが周期的に反転する電気です。日本では、東日本が50Hz、西日本が60Hzと決められており、1秒間に50回または60回、流れの向きが切り替わっています。
交流は「行ったり来たりしているだけで、前に進んでいないのでは?」と思われがちですが、エネルギーはしっかりと伝わっています。これは、ブランコを押すと揺れが大きくなるのと同じ原理です。
なぜ交流は送電に向いているのか
交流最大の強みは、変圧器を使って電圧を簡単に変えられる点にあります。
発電所から家庭まで電気を送る際、電圧を高くすると電流を小さくでき、送電線で発生する熱によるエネルギーロスを減らせます。
交流はこの電圧変換が容易なため、長距離・大規模な送電に非常に適しているのです。
家庭で使われる交流
家庭のコンセントから供給される電気は交流です。照明、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、エアコンなど、多くの家電は交流を前提に設計されています。特にモーターを使う機器は、交流との相性が良く、構造も比較的シンプルになります。
交流と直流の歴史 ―「電流戦争」の時代
19世紀後半、電気が実用化され始めた頃、世界では「直流か交流か」という大きな論争がありました。これは「電流戦争」と呼ばれています。
トーマス・エジソンは直流方式を推進しましたが、ニコラ・テスラやジョージ・ウェスティングハウスは交流方式を支持しました。最終的に、送電効率の高さから交流が社会インフラとして採用され、現在の電力網の基礎が築かれました。
なぜ私たちは両方の電気を使っているのか
家庭には交流が届いていますが、スマートフォンやパソコンは直流で動きます。この矛盾を解決しているのが、ACアダプターや電源回路です。
これらの装置は、
交流を直流に変換する
電圧を適切な値に下げる
電流を安定させる
という役割を担っています。私たちは意識せずとも、交流と直流の変換技術の恩恵を受けているのです。
再生可能エネルギーと直流の復権
太陽光発電や風力発電の普及により、直流の重要性が再び高まっています。太陽光パネルは直流を発生させるため、交流に変換する過程でロスが生じます。
そのため、直流のまま電力を供給・利用する「直流配電」の研究や実証実験が進められています。データセンターや電気自動車、スマートシティなどでは、直流の効率性が注目されています。
電気自動車と直流
電気自動車(EV)のバッテリーは直流であり、急速充電では高電圧の直流が直接供給されます。これにより充電時間を大幅に短縮できます。今後EVが普及するにつれ、直流技術の重要性はさらに高まるでしょう。
交流と直流を理解する意義
交流と直流の違いを理解することは、単なる理科知識ではありません。
なぜ省エネが重要なのか
なぜ充電器が熱を持つのか
なぜ停電対策に蓄電池が必要なのか
こうした疑問が、電気の性質を知ることで自然と理解できるようになります。
おわりに ― 電気の流れを知ることは未来を知ること
交流と直流は、対立する存在ではなく、それぞれが得意分野を持つ「役割分担」の関係です。私たちの社会は、この二つの電気を巧みに使い分けることで成り立っています。
電気の流れに少し目を向けるだけで、日常の風景や最新技術が、これまでとは違った意味を持って見えてくるかもしれません。交流と直流を知ることは、現代社会の仕組みを理解する第一歩なのです。

前田 恭宏
前田です
