周波数の違いは~なぜ?

周波数の違いは~なぜ?

25/09/24 13:52

日本の電力は、明治時代に導入したドイツ製(50Hz)とアメリカ製(60Hz)の発電機の違いから、東日本と西日本で周波数が分かれました。静岡県の富士川、新潟県の糸魚川が境界で、変換所を通じて電力が融通されています。統一は困難ですが、変換技術の進化により対応が進んでいます。

50Hzと60Hz――なぜ電気の周波数は地域で異なるのか?

私たちの暮らしに欠かせない「電気」。家庭で使う電気は、コンセントを通して供給されていますが、その電気には「周波数」という性質があります。日本では、地域によって電気の周波数が異なっていることをご存じでしょうか?
具体的には、東日本では50Hz(ヘルツ)、西日本では60Hzが使われています。この「50Hz・60Hz問題」は、長年にわたり日本の電力供給の一つの特徴であり、時に課題ともなってきました。

それでは、なぜ日本には2つの異なる周波数が存在するのでしょうか? また、その境界線はどこにあり、どうやって運用されているのでしょうか?
本コラムでは、その歴史的背景から現代への影響、そして周波数境界の実態までを詳しく解説していきます。

周波数とは何か?

まず、「周波数」とは何かを簡単に説明しておきましょう。
周波数とは、電気が1秒間に何回「正負の向きを変えるか(交流の波が繰り返されるか)」を示す単位で、「Hz(ヘルツ)」で表されます。

たとえば50Hzの場合、電気の波が1秒間に50回上下することを意味します。60Hzなら60回です。日本の家庭に供給されている電気は「交流(AC)」であり、直流(DC)とは違って、常に向きが変化しています。この周波数の違いは、電化製品の動作や効率、電力供給の仕組みにも影響を与えるため、極めて重要な要素です。

日本における周波数の二重構造:始まりは明治時代

日本の電気の周波数が地域によって異なる理由は、実は100年以上前の明治時代にさかのぼります。
当時、日本は急速に近代化を進めており、欧米の技術を積極的に導入していました。発電機の技術もその一環でしたが、ここに「周波数の分裂」を生む要因が潜んでいたのです。

東京と大阪で異なる発電機を導入

1895年、東京電燈(現在の東京電力の前身)がドイツ製の50Hz発電機を導入して、電力供給を開始しました。一方、1896年、大阪電灯(現在の関西電力の前身)はアメリカ製の60Hz発電機を導入します。

つまり、発電機の調達先が異なったことにより、偶然にも周波数が違っていたのです。ドイツでは当時50Hzが標準、アメリカでは60Hzが主流だったため、それぞれの発電機もそれに準じた設計になっていました。

統一されなかった理由

この時点で、理論的にはどちらかに統一するという選択肢もあったはずです。しかし、電力の普及が地域ごとに進められたこと、当時はまだ系統が独立していたこと、そして技術的・経済的な制約から、周波数の違いが全国に広がる前に統一されることはありませんでした。

さらに、1910年代にはそれぞれの地域に周波数を前提とした機器やインフラが構築されていき、統一がますます困難になっていきます。

二つの周波数がもたらす現代の課題

このような歴史的な経緯によって、日本には東西で異なる周波数の電力網ができあがってしまいました。今日においても、関東・東北・北海道などでは50Hz、中部より西では60Hzが使われています。

周波数の違いがもたらす不便

一つは、家電製品の対応です。近年では多くの電化製品が50Hz・60Hz両対応になっていますが、かつては非対応の製品も多く、引っ越しの際に家電を買い替える必要がある場合もありました。

また、商用施設や工場などでは、モーターや発電設備が周波数に依存して動くため、機器の設計や運用にも配慮が必要です。

電力融通の壁:東日本大震災で露呈

周波数の違いが最も大きな問題となったのは、2011年の東日本大震災でした。東京電力管内の発電所が津波によって停止し、深刻な電力不足に陥った際、西日本から東日本への電力融通が必要となりました。

しかし、周波数が異なるため、直接送電することができません。これを変換するには「周波数変換設備」が必要ですが、当時その容量はわずか100万kW程度。電力需要全体から見ればごくわずかなもので、大規模な融通には限界がありました。

この事態を受けて、政府や電力会社は周波数変換所の拡充を進め、2020年代にはその容量も300万kW以上に増強されましたが、完全な障壁除去には至っていません。

50Hzと60Hzの「境界線」はどこにある?

では、日本国内で50Hzと60Hzの境界はどこにあるのでしょうか?
実は、周波数の境界は「静岡県」と「新潟県」にあります。

  • 静岡県では、富士川(ふじがわ)を挟んで東が50Hz、西が60Hzです。

  • 新潟県では、糸魚川(いといがわ)を境に東側が50Hz、西側が60Hzです。

これらの境界線は、厳密に地理的な線引きとして決まっているわけではなく、送電網や変電所の系統単位で運用されています。つまり、「町の中で50Hzと60Hzの家が混在している」ということは基本的にありません。

また、これらの境界に近い地域では、家庭や工場、公共施設などでの機器の導入時に、対応する周波数に注意を払う必要がある場合もあります。

境界を超える電力の融通:周波数変換所の存在

東西の電力をつなぐためには、単純に送電線をつなぐだけでは不十分です。前述のように、周波数が異なると、そのままでは電気を送ることができません。

このため、周波数境界付近には、以下のような**「周波数変換設備」**が設けられています。

主な周波数変換所(2025年時点):

変換所名

所在地

容量(kW)

運営会社

新信濃変換所

長野県埴科郡坂城町

約60万kW

東京電力・中部電力

佐久間周波数変換所

静岡県浜松市天竜区

約30万kW

東京電力・中部電力

東清水変換所

静岡県静岡市清水区

約30万kW

東京電力・中部電力

飯田変換所

長野県飯田市

約10万kW

中部電力

これらの施設では、**交直交変換(AC→DC→AC)**という仕組みを使って、50Hzの電力を60Hzに、あるいはその逆に変換してから、隣接地域に送電しています。

なぜ今も統一されていないのか?

では、いっそのこと日本全体をどちらかの周波数に統一すれば良いのでは? と思う方もいるかもしれません。
実際にその議論は過去に何度も行われました。しかし、現実的なハードルは非常に高いのです。

莫大なコストと労力

全国の発電設備、変電所、送電網、家庭用・産業用機器など、周波数に依存するあらゆる設備を一斉に切り替えるには、数兆円単位のコストがかかると試算されています。

また、切り替えには長期間の準備が必要であり、切り替え中の混乱や電力供給への影響も無視できません。

現代の技術で克服可能に?

ただし、電力の需給バランスを調整するための仕組みや周波数変換技術は、現在では大きく進歩しています。再生可能エネルギーの導入や分散型電源の普及もあり、必ずしも全国を同一周波数にする必要性は薄れつつあります。

そのため、周波数統一よりも、変換設備の拡充やスマートグリッドの構築といった方向での解決が現実的と考えられています。

世界ではどうなっているのか?

日本のように、国内で複数の周波数が使われている国は世界的には珍しい存在です。

50Hzと60Hzの世界的分布

世界では、ヨーロッパ、アジア、アフリカの多くの国が50Hzを採用しています。一方、アメリカ、カナダ、韓国、台湾などは60Hzが主流です。

もともと、19世紀末にエジソンとウェスティングハウスの「電流戦争(DC vs AC)」が繰り広げられた結果、アメリカでは60Hzが標準化されました。一方で、ヨーロッパでは異なる経緯で50Hzが定着しました。

その結果、国境を越えた送電を前提とするヨーロッパでは、50Hzで統一されており、日本のように「国内で2つの周波数が併存する」国は他にほとんど存在しません。

結びに:二重構造を未来につなげるには?

50Hzと60Hz。たった10Hzの違いですが、そこには100年以上の歴史と技術、経済、そして社会の選択が積み重なっています。

この周波数の違いは、日本の電力供給の「弱点」として語られることが多い一方で、過去の教訓を活かし、技術革新で克服していくべき「課題」でもあります。
災害やエネルギー問題、脱炭素社会の実現など、今後の電力政策を考える上で、周波数問題は依然として重要なテーマであり続けるでしょう。

未来の電力インフラをどう築くか――その問いの中に、100年前の発電機の選択が、いまも静かに息づいているのです。

まとめ:50Hz・60Hzの「境界」は、歴史と技術の結晶

  • 日本の電力周波数は、明治時代に導入された異なる外国製の発電機が原因で、東が50Hz、西が60Hzと分かれました。

  • 境界線は静岡県と新潟県にあり、変換所を通じて電力のやり取りが行われています。

  • 統一の試みは過去に検討されたものの、コストやインフラ面から現実的ではなく、現在は変換設備の強化やスマートグリッドの導入が進められています。

  • この周波数の違いは、日本独自の電力インフラの象徴とも言えます。

たった10Hzの違いですが、100年以上の歴史と技術が積み重なった結果です。これからのエネルギー社会に向けて、この「周波数の壁」をどのように越えていくかが、未来の課題となっているのです。

Admin
前田 恭宏
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