
アレスター(避雷器)のすべて
アレスター(避雷器/LA):電気設備を守る最後の砦 アレスターは、落雷時に発生する異常高電圧(雷サージ)を地面へ逃がし、キュービクル等の高圧設備を保護する「安全弁」です。心臓部には酸化亜鉛(ZnO)素子が使われており、通常時は絶縁体、雷発生時のみ導体へと瞬時に変化する特性で回路を守ります。 建物全体を守る避雷針とは異なり、電気回路の内側を保護するのが役割です。設置から10〜15年が交換目安であり、劣化を放置すると波及事故や多額の損害を招く恐れがあるため、適切な点検と更新が不可欠な「電気の守護神」といえます。
落雷から設備を守る守護神:アレスター(避雷器)のすべて
1. はじめに:なぜ「アレスター」が必要なのか?
日本の夏には欠かせない夕立や、冬の日本海側で見られる激しい雷。雷が電柱や建物に落ちると、送電線を通じて数万ボルト、数万アンペアという凄まじいエネルギーの**「雷サージ(異常高電圧)」**が電気回路になだれ込みます。
もし、キュービクルの中にアレスターがなかったらどうなるでしょうか?
雷サージは変圧器(トランス)や遮断器などの高価な機器を瞬時に焼き切り、最悪の場合は爆発や火災を引き起こします。それだけでなく、地域一帯の停電や、精密機械のデータ消失など、経済的損失は計り知れません。
アレスターは、この暴走する雷のエネルギーを安全に地面へと逃がす「安全弁」の役割を果たしているのです。
2. アレスター(Lightning Arrester)の基本構造と役割
アレスター(Lightning Arrester / LA)は、日本語では**「避雷器」**と呼びます。
動作のイメージ
アレスターの役割を水道の蛇口に例えてみましょう。
通常時: 蛇口がしっかり閉まっており、水(電気)は外に漏れません。
雷サージ発生時: 水圧が異常に高まると、安全弁がパッと開き、余分な水(高電圧)を外へ逃がします。
通過後: 圧力が下がると、再び蛇口を閉めて、通常の水の流れに戻します。
主要成分:酸化亜鉛(ZnO)素子
現代のアレスターの心臓部には、**「酸化亜鉛(ZnO)」という素材が使われています。この素材は非常に面白い特性を持っており、「非直線抵抗特性」**と呼ばれます。
低い電圧(商用電圧)に対しては、電気が流れない「絶縁体」のように振る舞います。
高い電圧(雷サージ)が加わると、突如として電気がスイスイ流れる「導体」に変化します。
この素子のおかげで、アレスターはスイッチなどの可動部を持たずに、電圧の高さだけで自動的に回路を切り替えることができるのです。
3. キュービクル内での配置と接続
高圧受電設備(キュービクル)において、アレスターはどこに配置されているのでしょうか?
基本的には、外部からの電線がキュービクルに入ってきてすぐの**「受電点付近」**に設置されます。これは、雷サージが内部の変圧器などに到達する前に、水際で食い止めるためです。
接続の仕組み
アレスターの一端は高圧の電線に接続され、もう一端は**「接地(アース)」されています。 通常時は接地側へ電気は流れませんが、雷が来るとアレスターが導通し、雷エネルギーを大地へと放出します。このとき、アレスターを通過した後の電圧を「制限電圧」**と呼び、この電圧が機器の耐電圧(BIL)を下回るように設計されています。
4. 「避雷針」と「避雷器(アレスター)」の違い
よく混同されるのが、建物の屋上にある「避雷針」です。どちらも雷対策ですが、役割は全く異なります。
項目 | 避雷針 | 避雷器(アレスター) |
目的 | 建物への直撃雷を防ぐ | 電線を伝わってくる雷サージを防ぐ |
守る対象 | 建物そのもの、中にいる人 | 電気回路、精密機器、変圧器 |
設置場所 | 屋上などの高い場所 | キュービクル内、電柱の上 |
つまり、避雷針は「外側」を守り、アレスターは「内側(神経系)」を守るコンビネーションなのです。
5. アレスターの種類と進化
アレスターにも、技術の進歩に伴ういくつかの種類があります。
① ギャップ付き避雷器(旧式)
昔のアレスターは、空気の隙間(ギャップ)を持っていました。高い電圧がかかると、その隙間で火花放電を起こして電気を逃がす仕組みです。しかし、放電のタイミングが不安定だったり、放電が終わった後も電気が流れ続けてしまう「続流」という問題がありました。
② ギャップレス避雷器(現在主流)
前述した「酸化亜鉛(ZnO)素子」の登場により、空気の隙間が不要になりました。
応答速度が速い: 雷が来た瞬間に反応します。
続流がない: 雷サージが消えればすぐに絶縁状態に戻ります。
小型・軽量: メンテナンス性も向上しました。
③ 低圧用SPD(避雷器)
最近では、家庭やオフィスのコンセントレベルで電子機器を守るための**SPD(Surge Protective Device:サージ防護デバイス)**も普及しています。これも広義のアレスターの一種です。
6. アレスターのメンテナンスと寿命
「設置すれば一生安心」というわけにはいかないのがアレスターの難しいところです。
寿命の原因
雷サージの蓄積: 大きな雷を何度も逃がすと、内部の素子が徐々に劣化します。
熱劣化: 常に高電圧がかかっているため、長年の運用で熱を持ち、特性が変化することがあります。
吸湿・汚損: 湿気や埃が内部に入り込むと、絶縁破壊を起こす原因になります。
故障のサイン
アレスターが故障(短絡故障)すると、逆にアレスター経由で地絡事故が発生し、ビル全体が停電してしまうことがあります。これを防ぐために、多くのアレスターには**「切り離し装置(ディスコネクタ)」**が付いており、故障時には物理的に回路から外れるようになっています。
点検のポイント
外観点検: 割れ、汚れ、変色がないか。
絶縁抵抗測定: 絶縁性能が維持されているか。
漏れ電流測定: 内部の劣化具合を数値で確認します。
交換目安: 一般的に10年〜15年が更新の目安とされています。
7. 実例:アレスターがなかったら起こる悲劇
ある中小工場の事例です。この工場ではコスト削減のため、古いキュービクルのアレスターが故障したまま放置されていました。
ある夏の日、近くの電柱に落雷がありました。雷サージは電線を伝ってキュービクルに侵入。アレスターが機能しなかったため、高電圧はそのままメインの変圧器を直撃しました。
結果、変圧器の内部絶縁が破壊され、工場全体が停電。復旧には特注の変圧器の交換が必要で、数百万の修理費と、3日間のライン停止による数千万の損害が発生しました。
もし、数万円〜十数万円のアレスターが正常に動作していれば、この被害は最小限に抑えられていたはずです。
8. まとめ:電気設備の「保険」として
アレスターは、普段は何もしない「ただの筒」に見えるかもしれません。しかし、一瞬の雷が襲ってきたとき、自らを犠牲にしてでも設備を守る姿は、まさに電気システムのアンサング・ヒーロー(無名の英雄)です。
雷サージを地面に逃がす唯一の道。
酸化亜鉛素子が魔法のスイッチとして機能する。
10〜15年の定期的な更新が、数千万円の損害を防ぐ。
もしあなたがビルの管理責任者や工場の電気担当者であれば、次回の点検時にぜひ「アレスターの状態はどうですか?」と確認してみてください。その一言が、未来のトラブルを防ぐ鍵になるかもしれません。
前田 恭宏
前田です













