
地絡継電器(GR)の基礎知識と役割
現代社会を支える電気には、常に「漏れ(地絡)」による感電や火災、広域停電という重大なリスクが潜んでいます。こうした電気の暴走を24時間体制で監視し、事故を未然に防ぐ「沈黙の番人」が**地絡継電器(GR)**です。 一般には馴染みの薄い名称ですが、ビルや工場の高圧受電設備(キュービクル)には欠かせない、電気保安の要となる装置です。本コラムでは、この地絡継電器がどのような仕組みで異常を検知し、私たちの安全を守っているのか、初心者の方にも分かりやすくその重要性と役割を解説します。
見えない電気の漏れを防ぐ守護神 ― 地絡継電器(GR)の基礎知識と役割
はじめに
私たちの現代社会は、電気なしでは一瞬たりとも成り立ちません。家庭の照明から工場の巨大なライン、都市を支えるデータセンターまで、網の目のように張り巡らされた電線がエネルギーを運び続けています。しかし、この便利な電気には常に「漏れ」というリスクがつきまといます。
もし、電線から電気が外に漏れ出したらどうなるでしょうか? それは単なる「電気の無駄遣い」では済みません。触れた人間を死に至らしめる「感電事故」、建物を焼き尽くす「電気火災」、そして一箇所のトラブルが地域一帯を停電させる「波及事故」へと発展する恐れがあるのです。
こうした電気の暴走を未然に防ぎ、私たちの安全を24時間365日、休むことなく見守り続けている「沈黙の番人」がいます。それが今回解説する**「地絡継電器(じらくけいでんき)」**です。
一般の方には馴染みの薄い名前かもしれませんが、ビルや工場の屋上、あるいは街角にある「キュービクル(高圧受電設備)」の中には必ずと言っていいほど設置されている、電気保安の要(かなめ)となる装置です。
本コラムでは、電気の初心者の方から実務に携わり始めたばかりの方までを対象に、地絡継電器とは一体何なのか、どのような仕組みで異常を検知し、私たちの暮らしをどう守っているのかを、初歩的な部分からじっくりと紐解いていきます。
1. 地絡継電器とは?
正式名称と通称
地絡継電器は、英語で Ground Fault Relay と呼ばれるため、現場ではその頭文字をとって 「GR(ジーアール)」 と呼ばれるのが一般的です。
一言で言うと「電気の漏れを見張るセンサー」
私たちが使う電気は、通常「電線」という決まったルートを通っています。しかし、電線の被覆が破れたり、機器が故障したりすると、電気が本来のルートを外れて「地面」へと流れてしまうことがあります。この現象を地絡(じらく)、いわゆる「漏電」と呼びます。
地絡継電器は、この異常な電気の流れ(地絡電流)を瞬時に検知し、大きな事故(感電や火災)に発展する前に回路を遮断するための「命令」を出す役割を担っています。
2. 地絡(漏電)の恐ろしさ
なぜ地絡継電器が必要なのかを理解するために、まずは「地絡」が引き起こすリスクを確認しておきましょう。
感電事故: 人が漏電している機器に触れると、電気は人の体を通って地面へ流れます。これは命に関わる重大な事故です。
電気火災: 漏れ出した電気が火花を散らしたり、建物の鉄筋などを通って熱を持ったりすることで、火災の原因になります。
波及事故: ある一つの建物で起きた地絡が原因で、近隣一帯が停電してしまうことがあります。これを「波及事故」と呼び、多額の賠償問題に発展するケースもあります。
3. 地絡継電器の仕組みと「相棒」たち
地絡継電器は単体で動くのではなく、いくつかの機器とセットで機能します。特に重要なのが、電気の漏れを物理的に測る**「零相変流器(ZCT)」**です。
零相変流器(ZCT)の役割
ZCTはドーナツのような形をした装置で、その中に電線をまとめて通します。
正常時: 行きの電流と帰りの電流の合計はゼロになります(打ち消し合うため)。
地絡時: どこかで電気が漏れると、行きと帰りのバランスが崩れ、わずかな差が生じます。
ZCTはこの「わずかな差(零相電流)」をキャッチし、信号として地絡継電器(GR)に送ります。
地絡継電器(GR)の判断
ZCTから「電気が漏れている!」という信号を受け取ったGRは、それが「本当に危険なレベルか」「一瞬のノイズではないか」を瞬時に判断します。設定された数値を超えていれば、遮断器(ブレーカー)に対して「電気を止めろ!」という信号を飛ばします。
4. どこに使われているのか?(主な設置場所)
地絡継電器は、主に**高圧受電設備(キュービクル)**に設置されています。
高圧受電設備(自家用電気工作物)
ビル、工場、学校、大型商業施設などは、電力会社から6,600Vという非常に高い電圧で電気を購入しています。この高い電圧を扱う場所では、ひとたび地絡が起きると被害が甚大になるため、法令や技術基準によって地絡継電器の設置が厳格に定められています。
具体的な設置ポイント
主遮断装置(メインの入り口): 建物全体の漏電を監視します。
屋外の電気機器: 看板や街灯など、雨にさらされる場所は地絡が起きやすいため、個別に設置されることがあります。
5. 地絡継電器の種類
環境や用途に合わせて、いくつかのタイプを使い分けます。
種類 | 特徴 | 主な使用場所 |
地絡継電器(GR) | 電流の大きさだけで判断する最も一般的なタイプ。 | 一般的なビル・工場の受電設備。 |
地絡方向継電器(DGR) | 電流の「向き」まで判別する高性能タイプ。 | 他の建物からのもらい事故を防ぐ必要がある場所。 |
漏電火災警報器 | 遮断はせず、警報を鳴らすことに特化したもの。 | ラスモルタル壁など火災リスクの高い建物。 |
特に**DGR(Directional Ground Relay)**は重要です。大規模な工場などが並んでいる地域では、隣の工場で起きた地絡を「自分のところのトラブル」と誤認して停電させてしまうことがあります。DGRは電圧の位相を見ることで「自分の敷地内で起きた事故かどうか」を判別できる賢い装置です。
6. 保守点検の重要性
地絡継電器は「いざという時」にしか動きません。そのため、普段から正常に動作するかチェックしておく必要があります。
月次点検: 外観に異常がないか、目視で確認します。
年次点検: 実際に模擬的な地絡電流を流して、規定の秒数(0.1秒〜0.2秒など)で正しく動作するか試験装置を使って測定します。
もし地絡継電器が経年劣化で故障していると、地絡が発生しても電気が止まらず、最悪の事態を招くことになります。
7. まとめ:安全な電気利用を支えるエンジニアの目
地絡継電器は、目立たない存在ですが、私たちの命と財産を守るための最後の砦です。
地絡(漏電)を監視し、事故を未然に防ぐ。
ZCT(センサー)と協力して異常を検知する。
高圧設備には欠かせない法的にも重要な装置である。
普段、建物の隅にある緑色の箱(キュービクル)を見かけたら、「あの中に地絡継電器がいて、この建物の安全を24時間守ってくれているんだな」と思い出してみてください。
前田 恭宏
前田です
