
明治新政府が誕生し、日本が近代国家へと歩みを進めた激動の時代。日本の資本主義の父といえば渋沢栄一が有名ですが、関西、特に大阪の経済をゼロから再構築し、地盤を築いた「近代大阪経済の父」こそが五代友厚(ごだい ともあつ)です。 渋沢が「論語と算盤」を掲げたのに対し、五代は「公の精神」と「圧倒的なスピード感・グローバル視点」で数々の先進的な組織を立ち上げました。 現在、VUCA(先行きが不透明な時代)と呼ばれる現代において、なぜ五代友厚の経営手法が改めて注目されているのか?彼の生涯から、現代のビジネスにも通じる経営手法と哲学を紐解きます。
五代友厚は1836年、薩摩藩(現在の鹿児島県)に生まれました。
若い頃から世界地図に触れ、グローバルな視点を持っていた彼は、薩摩藩の遣英使節団としてヨーロッパへ渡り、最先端の機械技術や社会システムを肌で体感します。
明治維新後は政府の官僚(外国官判事など)を務めますが、「日本を強くするには政治ではなく、経済の力が必要だ」と確信し、実業家に転身。衰退しかけていた大阪を拠点に、以下のような現代のインフラの基礎となる組織を次々と設立しました。
大阪株式取引所(現:大阪取引所):証券市場の確立
大阪商法会議所(現:大阪商工会議所):経済人のネットワーク化(初代会頭)
大阪商業講習所(現:大阪公立大学):次世代のビジネスリーダー育成
大阪造幣局の誘致:貨幣制度の近代化
五代の経営は、目先の利益を追う「商売」ではなく、社会の仕組みそのものをデザインする「グランドデザイン」の視点に満ちていました。その手法は、現代の最先端の経営戦略とも深く合致しています。
五代の経営手法の根幹にあるのは、「富を築くのは国家のためであり、私利私欲のためではない」という強い信念です。
当時、多くの豪商が倒産し、機能停止に陥っていた大阪経済を救うため、彼は個人の財閥を大きくすることよりも、「大阪という街全体の経済プラットフォームを作る」ことに注力しました。
現代でいう「パーパス(社会的存在意義)経営」や「サステナビリティ(持続可能性)」を、150年以上前に実践していたのです。
この無私の精神があったからこそ、利害関係が対立しやすい多くの豪商たちを一つにまとめ上げることができました。
五代は、かつて敵対していた長州藩のビジネスパーソンや、当時の最先端技術を持つ外国人、さらには旧幕府側の豪商たちとも積極的に手を組みました。
「日本を近代化させる」という大目的のため、過去の因縁や国籍、立場にとらわれず、最適なリソースを組み合わせる「オープンイノベーション」を得意としていたのです。
自社のリソースだけで完結させず、外部の知見や技術をスピーディーに取り入れる手法は、変化の激しい現代ビジネスにおいて最も必要なスキルのひとつです。
五代の優れた点は、仕組み(インフラ)を作るだけでなく、それを動かす「人」の育成に早くから投資した点です。
彼は「これからの日本には、世界と渡り合える商業の知識を持った人材が必要だ」と考え、大阪商業講習所を設立しました。
物教育だけでなく、実践的な経済学や語学を学べる環境を整えたことは、現在のリスキリングや人間資本経営の重要性を予見していたかのような先見の明と言えます。
同時期に活躍した岩崎弥太郎(三菱財閥の創始者)や三井・住友といった豪商たちが巨大な「財閥」を形成したのに対し、五代友厚は自身の名を冠した財閥を遺しませんでした。
49歳という若さで亡くなったとき、彼の手元には莫大な資産はなく、むしろ多額の借金が残っていたと伝えられています。
なぜなら、新しい事業を立ち上げて軌道に乗せると、すぐにそれを公のものとしたり、他の実業家に引き継いだりしていたからです。
一見、経営者としては不器用に見えるかもしれません。
しかし、彼が遺した「大阪商工会議所」や「大阪取引所」といった仕組みは、特定の企業が独占するものではなく、すべてのビジネスパーソンがフェアに戦える「土壌」となりました。彼が遺したのは、一族の富ではなく、「関西経済」という巨大なエコシステムそのものだったのです。
五代友厚の経営手法から、現代の私たちが学べるビジネスのヒントは以下の3点に集約されます。
大義(パーパス)を持つこと:社会にどう貢献するかという視点が、人を動かす。
巻き込み力(協業):立場を超えて、共通の目標のために最適なパートナーと組む。
未来への投資(教育):目先の利益だけでなく、次世代を育てる仕組みを作る。
ビジネスの環境がどれほどデジタル化し、グローバル化しようとも、その根底にある「誰のために、何のために事業を行うのか」という本質は変わりません。
「西の五代」が遺した情熱と経営哲学は、今を生きる私たちに、力強いブレイクスルーのヒントを与えてくれています。
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