
工事現場の「インボイス制度」2026年10月の「70%控除」移行と一人親方・元請けが取るべき実務対応
2023年10月に導入されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)。建設業や電気工事業など、多層請負構造が根強い工事現場では、一人親方や下請け企業のインボイス対応を巡り、現在もさまざまな試行錯誤が続いています。 特に2026年10月1日からは、免税事業者からの仕入れに対する経過措置が従来の「80%控除」から「70%控除」へと移行します。これにより元請け側のコスト負担がさらに増加するため、元請け・下請け問わず実務対応の見直しが急務となっています。 本コラムでは、工事現場におけるインボイス制度の影響、2026年10月以降の変更点、そして一人親方と元請け双方がとるべき具体的な対策を分かりやすくご紹介します。
1. 工事現場におけるインボイス制度の基礎知識
インボイス制度とは、所定の要件を満たした「適格請求書(インボイス)」がなければ、買い手(元請け)が消費税の仕入税額控除を受けられなくなる仕組みです。
工事現場特有の課題:「多層請負」と「一人親方」
工事現場では、元請けから一次下請け、二次下請け、一人親方へと仕事が細分化されて流れていきます。
この末端に位置する一人親方や小規模事業者の多くは、年間の売上が1,000万円以下の免税事業者でした。
下請けや一人親方が「インボイス未登録(免税事業者)」のままである場合、元請けは支払った消費税分を自社の納税額から控除できません。
結果として、「元請けが代わりに消費税を負担する」か「下請けに単価の引き下げを交渉する」かという選択を迫られることになります。
2. 2026年10月からの「70%控除」移行と経過措置のスケジュール
いきなり全額控除不可にすると現場が混乱するため、国は段階的な「経過措置」を設けています。しかし、2026年10月に大きなターニングポイントを迎えます。
期間 | 免税事業者からの仕入れに対する控除割合 | 元請け側の控除不可割合(自社負担) |
制度開始〜2026年9月30日 | 80%控除 | 20%(2割負担) |
2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70%控除(新設段階) | 30%(3割負担) |
2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50%控除 | 50%(5割負担) |
2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30%控除 | 70%(7割負担) |
2031年10月1日以降 | 0%(全額控除不可) | 100%(全額負担) |
※当初の法改正案にあった急激な変化(80%→50%)を和らげるため、スケジュールが一部改定され「70%控除」の期間が設けられました。
元請けのコスト負担増の具体例
例えば、インボイス未登録の一人親方に「本体価格100万円+消費税10万円=110万円」を支払った場合、2026年10月以降は以下のようになります。
2026年9月まで(80%控除):10万円のうち8万円は控除可能。元請けの自社負担は2万円。
2026年10月以降(70%控除):10万円のうち7万円のみ控除可能。元請けの自社負担は3万円に増加。
年間で何十名もの一人親方を発注している元請け・協力会社にとって、この「負担割合10%増加」は利益率を直撃する大きな影響を及ぼします。
3. 立場別:工事現場で取るべき実務対応
【一人親方・下請け側】登録の判断と負担軽減策
① インボイス登録(課税事業者化)を行うべきケース
大手ゼネコンや中堅建設会社、ハウスメーカーなどが主な取引先の場合、インボイス登録を行うのが標準的な選択肢となっています。
未登録のままだと、発注を控えられたり、新規案件に入りにくくなったりするリスクがあるためです。
新たに課税事業者となった場合は、納付する消費税額を抑える軽減措置(2割特例や、移行後の3割特例など)を活用することで、手取り収入の大幅な減少を抑えつつ事務負担を軽減できます。
② 免税事業者のまま残る選択が可能なケース
エンドユーザー(一般消費者)からの直接請負(BtoCのリフォームや修繕工事)がメインである場合や、主な元請け企業が「簡易課税制度」を選択している場合は、免税事業者のままでも受注に大きな影響が出ないケースがあります。
【元請け・管理側】トラブルを防ぐコンプライアンス管理
① 単価調整・値引き交渉における注意点(下請法・取適法・独禁法)
2026年10月からの自社負担増に伴い、未登録の一人親方に対して単価交渉を行う場面が増えると予想されます。
しかし、元請けが一方的に消費税相当分の全額値引きを通告したり、登録を強制したりすることは明確な違法行為(優越的地位の乱用)となります。
単価交渉を行う際は、現在適用されている控除割合(70%)や相手の立場を十分に配慮し、必ず事前に双方合意の上で契約を変更するプロセスを徹底してください。
② 現場の立替金・経費領収書の厳格化
工事現場では、駐車料金、高速道路代、現場で緊急調達した部材費などを現場監督や職人が立て替える場面が多々あります。
これらも「立替先の事業者(コインパーキングや電材店)のインボイス登録番号が記載された領収書」がなければ仕入税額控除ができません。現場での領収書回収ルールの再周知が必要です。
③ 会計ソフト・管理システムの税区分変更
2026年10月1日を跨ぐ請求書処理から、システム上の税区分を「80%控除」から「70%控除」へ変更する設定更新を忘れずに行ってください。
4. まとめ
工事現場におけるインボイス制度の対応は、「制度が始まったから終わり」ではなく、経過措置の切り替えに伴って継続的に実務をアップデートしていく必要があります。
2026年10月の「70%控除」への移行を一つの契機として、自社の協力業者リストの最新化、コスト試算、法令を遵守した適切な単価調整の話し合いを進めていきましょう。
元請け・下請けがお互いに納得のいく良好な関係性を維持することが、現場の安定した施工体制と事業継続には不可欠です。
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