
ベトナムで約3週間、電気の授業を行った体験をもとに、外国人電気人材育成で本当に重要な現地理解、第二種電気工事士対策、安全教育、日本文化・現場コミュニケーション教育の必要性について解説します。
ベトナムのゴキブリは、とにかく大きいです。
しかも、ただ大きいだけではありません。ガサガサガサっと音を立てながら、驚くほどの速さで走っていきます。
日本のゴキブリも十分すばやいですが、体感では1.5倍は速い。
大きさも、最初に見たときは「これは本当にゴキブリなのか」と思うほどで、感覚的には3倍くらいあるように感じました。
正直、かなり怖かったです。
いい大人が何を言っているのかと思われるかもしれませんが、あれは本当に衝撃でした。
ただ、この体験は単なる恐怖体験で終わりませんでした。
むしろ私はこの出来事を通じて、「来てみないと分からない」「体験しないと分からない」ことが本当に多いと、改めて実感したのです。
私はベトナムで約3週間、電気の授業を教えていました。
日本で働くことを目指す生徒に対し、電気の知識や技能、安全についての考え方などを伝える時間でした。
その滞在の中で感じたのは、外国人電気人材育成を本気で考えるなら、制度や採用条件だけではなく、
現地の感覚や価値観を理解することが欠かせないということです。
実は私は以前にも、2週間ほどベトナムに来たことがありました。ただ、そのときはホテル滞在でした。
もちろん現地の空気に触れてはいましたが、今振り返ると、どこか半分は旅行者の感覚だったのだと思います。
生活の土台が整った環境にいて、必要なものはすぐ手に入り、滞在そのものもどこか外側からベトナムを見ているような感覚がありました。
今回はそれとは違い、サービスアパートに宿泊しました。
自分で料理をし、市場へ買い物に行き、現地の生活の流れの中に自分も少し入り込む形で過ごしました。
すると、見えるものが前回とはまったく違いました。
単に「ベトナムという国を見た」のではなく、ベトナムで暮らす感覚に少し近づけた気がしたのです。
市場の空気、売り手と買い手のやり取り、生活のテンポ、街の音、人との距離感、時間の流れ方。
こうしたものは、ホテル滞在だけではなかなか分かりません。
サービスアパートで生活し、自分の手で日常を回してみたからこそ、現地の人たちの考え方や感受性に、以前より深く触れることができたのだと思います。
今回の滞在で特に印象に残ったのは、「普通」の基準が国によってこんなにも違うということでした。
たとえば、日本人の私から見ると、「この人はかなりいい加減だな」と感じる人がいます。
時間の感覚、段取り、確認の仕方、細かな詰め方など、日本であれば「もう少しきっちりしたほうがいい」と言われてもおかしくないような場面です。
正直に言えば、日本人の感覚ではかなり上位に入るくらいの“いい加減さ”に見えることもありました。
ところが、現地ではその人が「普通」どころか、「とても真面目な人」と評価されていることがあるのです。
最初は驚きましたし、「これで真面目なのか」と戸惑いもありました。
しかし、しばらく過ごしているうちに、自分の中で別の問いが生まれました。
それは、自分が普通だと思っている基準は、いったいどこから来ているのかということです。
日本では、時間を守ること、細かく確認すること、曖昧な返事をしないこと、段取りを詰めること、準備をきちんと整えることが強く求められます。
特に電気工事のような仕事では、それが安全や品質に直結します。
だからこそ大切なのですが、それはあくまで日本の社会や現場文化の中で育まれた基準でもあります。
一方で、ベトナムでは日本人から見れば少し適当に感じるくらいでも、十分に誠実で、十分に真面目で、周囲から信頼されている場合があります。
私はそれを見て、いい意味で肩の力が抜けている国だなと感じました。
必要以上に神経を張り詰めなくても、人間関係や日常が自然に回っていく柔らかさがある。
日本人の感覚でいう「そこまで気にしなくていいのでは」が、普通に成立しているように感じたのです。
こうした違いに触れると、外国人電気人材の受け入れとは、単に人を採用することではないとよく分かります。
違う普通を持つ人に、日本の現場で必要な基準を理解してもらい、実践できるように育てることが必要です。
その橋渡しをするのが、就労前教育の役割だと感じています。
日本の電気工事会社が外国人材を受け入れる場合、求めるのは単なる労働力ではありません。
安全に作業できること、指示を正しく理解できること、報告・連絡・相談ができること、現場のルールに従えること、そして周囲と協力しながら仕事ができることが求められます。
特に電気工事の現場では、確認不足や認識のズレが大きな事故につながる可能性があります。
そのため、技術だけでなく、安全意識や現場の基本行動を、就労前の段階でしっかり身につけておくことが非常に重要です。
私たちが行っている教育では、日本で電気工事士として働くうえで重要な第二種電気工事士対策を行っています。
これは単なる資格試験対策ではありません。
日本の電気工事の基本的な考え方、施工の基礎、配線や器具の理解、作業手順の正確さなど、日本の現場で必要になる要素を学ぶための重要な土台です。
技能試験13項目に対応した実技練習を通じて、工具の使い方、配線作業、施工の順序、仕上がりの正確性を身につけていきます。
また、電気理論などの学科も学ぶことで、ただ手を動かすだけではなく、なぜその作業が必要なのかを理解できるようになります。
外国人電気人材育成において大切なのは、資格の有無だけではなく、日本の仕事の基準で学ぶ経験を持っているかどうかです。
第二種電気工事士対策は、その意味でも非常に実践的な教育だといえます。
そして、外国人電気人材育成で最も重視すべきものの一つが安全教育です。
電気工事は、工具の使用、配線、通電設備の取り扱い、高所作業など、常に危険と隣り合わせの仕事です。
知識や技能があっても、安全意識が伴っていなければ、現場では大きなリスクになります。
そのため、就労前教育では、作業前の確認、保護具の着用、危険予知、整理整頓、声かけ、報告・連絡・相談など、日本の現場で基本となる安全行動を繰り返し教える必要があります。
安全教育は知識として知るだけでは足りません。習慣として身につけることに意味があります。
これは、日本人の感覚で「当たり前」と思っていることを、相手の背景や感覚を踏まえて、なぜ必要なのかまで含めて伝える作業でもあります。
そうしなければ、本当の意味で現場に根づく教育にはなりません。
さらに、日本で長く働くためには、技術や安全教育だけでは不十分です。
日本文化・現場コミュニケーション教育も欠かせません。
時間厳守、あいさつ、礼儀、報告・連絡・相談、指示の復唱、分からないことをそのままにしない姿勢。
これらはすべて、日本の現場で信頼されるために必要な基本です。国が違えば、働き方の感覚も違います。
だからこそ、日本語を教えるだけではなく、現場でどのように伝え、どのように確認し、どのように動くのかまでを具体的に教えることが重要になります。
実際、外国人材の受け入れでは、技術以上にコミュニケーションの差が定着率を左右することも少なくありません。
ベトナムの大きなゴキブリに驚いたことも、市場での買い物に戸惑ったことも、サービスアパートで生活して初めて見えたことも、すべては「現地を知る」という一点につながっています。
以前のホテル滞在では分からなかったことが、今回はたくさんありました。
前回が悪かったわけではありません。
ただ、ホテルにいる限り、自分はどこか守られた場所にいて、現地の生活感覚には半歩届いていなかったのだと思います。
今回はもう少し深く入り込み、生活の匂いや人の空気に触れることができました。
その経験を通じて、外国人材育成とは、制度を整えることだけではなく、相手の背景を理解したうえで、日本で必要な力を育てることなのだと、以前よりはっきり感じました。
外国人電気人材の受け入れを成功させるには、採用後に教えるのではなく、就労前の段階から第二種電気工事士対策、安全教育、日本文化・現場コミュニケーション教育を丁寧に積み重ねていくことが重要です。
そして、その教育を本当に意味のあるものにするためには、教える側もまた、現地を知り、相手を知ることが必要なのだと思います。
来てみないと分からない。体験しないと分からない。
ベトナムで過ごした今回の3週間は、その当たり前の重みを改めて教えてくれました。
そしてその実感こそが、外国人電気人材育成と受け入れ成功の出発点になるのだと感じています。
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