
低圧LCユニットの活用と応用
キュービクルの省スペース化を図る手法として、低圧LCユニットの活用が注目されています。従来は高圧側に設置していた進相コンデンサと直列リアクトルを低圧側に配置することで、函体寸法の縮小や保守性の向上が可能になります。特に狭小スペースや既設設備の更新時に有効です。一方、電流増加や高調波影響などの設計上の課題もあるため、適切な選定と設計が不可欠です。主要メーカーには富士電機、三菱電機、日東工業、ニチコンなどがあります。
【技術コラム】低圧LCユニットの活用とキュービクル設計への応用
~函体寸法の最適化と設備設計の新たな選択肢~
電力設備の中核を担うキュービクル(高圧受電設備)の設計において、機器の配置や函体(筐体)寸法の最適化は常に重要な課題である。近年、設計自由度を高めつつ、省スペース化を実現する手法として注目されているのが、「低圧LCユニット」の活用である。本コラムでは、低圧LCユニットの概要、使用メリット・デメリット、さらにはキュービクル設計における応用事例について解説する。
■ キュービクル設計におけるLC回路の役割
まず、基本的な構成から整理したい。キュービクルには通常、電力会社から供給される高圧電力(6.6kVなど)を受電し、トランスを介して低圧に変換・供給する役割がある。電力の品質を保ち、無効電力の発生を抑制するため、力率改善のための進相コンデンサ(capacitor)や、高調波対策用のリアクトル(reactor)が接続される。
この進相コンデンサと直列リアクトルを組み合わせた構成を「LCユニット」と呼ぶ。従来は、これらを高圧側に設置するのが一般的であった。これは、電圧が高いため電流が小さく、より小型の機器で同様の無効電力を制御できるというメリットがあるためだ。
しかし、近年ではこのLCユニットを低圧側に配置するという選択肢、すなわち「低圧LCユニット」の導入が増えてきている。
■ 低圧LCユニットとは?
低圧LCユニットは、その名の通り**低圧(400V級)**の側に設置する進相コンデンサ+直列リアクトルのセット製品である。以下のような構成を持つ。
低圧進相コンデンサ
三相400V対応が主流(200V系も存在)
自己修復機能付きの安全設計が一般的
直列リアクトル
高調波カット用(6%、7%、12%などのインピーダンス)
コンデンサ保護と高調波対策の両立
多くの電材メーカーや電機メーカーから、パッケージ製品としてリリースされており、盤内に収納可能なタイプや、盤外設置用の自立型も存在する。
■ 低圧LCユニットを使用するメリット
1. キュービクル函体寸法の縮小が可能
高圧機器は絶縁距離や機器間クリアランスの制約が厳しく、設置には大きなスペースを要する。特に高圧進相コンデンサ+直列リアクトルを内蔵する場合、函体が大型化し、設置スペースが増える傾向にある。
これに対して、LCユニットを低圧側に持ってくることで、高圧盤内の機器点数が減り、函体寸法をコンパクトに抑えることが可能になる。
2. メンテナンス性の向上
高圧機器の保守点検は、電気主任技術者資格を持つ者に限られるうえ、停電作業が伴うケースが多い。一方、低圧LCユニットは低圧側に設置されているため、保守作業の自由度が高く、作業リスクも低い。
また、盤外設置が可能なタイプを採用すれば、キュービクルを開放することなくLC機器単体の点検・交換ができる。
3. 現地増設が容易
将来的に負荷の増加が見込まれる場合、低圧LCユニットであれば既設設備に後付け・増設が比較的容易である。高圧側への追加は申請や保安規定の制約が多いが、低圧側であれば柔軟な対応が可能。
■ デメリット・注意点
一方で、低圧LCユニットにも無視できないデメリットや注意点が存在する。
1. 電流値が大きくなり機器容量が増加
同じ容量(kvar)の無効電力を補償する場合、低圧では高圧に比べて流れる電流が大きくなる。そのため、コンデンサ本体やリアクトルのサイズが大きくなりやすい。
結果として、低圧配電盤内に十分なスペースが確保できない場合、盤外設置や別筐体の採用が必要になる。
2. 低圧系統への影響が増す
高調波やスイッチングサージなどの影響が、低圧系統に直接及ぶ可能性がある。高調波フィルターや適切なリアクトルインピーダンスの選定が必要となるため、設計・導入には十分な検討が不可欠。
3. 力率改善の効果が局所的
低圧側で力率補償を行うと、主に負荷近傍での電流削減に寄与するが、高圧側(例えば高圧引込ケーブルや高圧トランス)の力率改善には直接的な効果は少ない。電力会社との力率契約への影響を意識する場合は注意が必要。
■ 選定のポイントと注意事項
低圧LCユニットの導入にあたり、以下のようなポイントに留意すべきである。
使用電圧(200V/400V)と負荷系統の電圧の整合性
コンデンサ容量(kvar)と高調波対策インピーダンス
設置場所(屋内/屋外、盤内/盤外)と寸法制約
電源設備全体の力率監視と最適容量の算出
高調波の含有率とコンデンサ焼損リスクの評価
特に高調波対策は極めて重要であり、リアクトルの選定は専門的な知識を要する。6%リアクトルは汎用的だが、ハーモニクスが多い現場では12%やフィルタ型の導入を検討する必要がある。
■ 主な製品例(※2024年現在)
以下は、国内で一般的に流通している低圧LCユニット製品の一例である。
メーカー | 製品名 | 特徴 |
富士電機 | 低圧進相コンデンサユニット | 三相400V対応、屋内・屋外タイプあり |
日東工業 | CULシリーズ | コンデンサ・リアクトル一体型、保護ヒューズ内蔵 |
三菱電機 | MCCシリーズ | モジュール式、負荷に応じた組合せが可能 |
TDKラムダ | アクティブフィルタ+LC | 高調波抑制に特化した製品構成 |
ニチコン | LCユニットシリーズ | コンデンサ技術に強み、高調波対策・制御盤組込対応型もあり |
※メーカーや製品仕様は随時更新されるため、詳細は最新のカタログ・技術資料を参照のこと。
■ 実際の導入事例:函体寸法の縮小と設計効率化
ある工場の電力設備更新プロジェクトにおいて、既設スペースに新しいキュービクルを収める必要があった。高圧コンデンサ+リアクトル構成では函体サイズが既設寸法を超えてしまうため、低圧側へのLCユニット移設を検討。以下のような成果が得られた。
キュービクル函体の高さを約30cm縮小
高圧盤内の点検スペースを拡大
定期点検を低圧設備で完結できるようになり、保守時間を1/3に短縮
このように、空間制約や保守性を重視する現場では、低圧LCユニットが非常に有効な選択肢となる。
■ まとめ:設計の柔軟性と将来性を支える選択肢
低圧LCユニットは、単なる「設置スペースの都合」を超えて、保守性・拡張性・施工性といった複合的なメリットを持つ製品である。一方で、電流値の増大や高調波の影響など、設計上の懸念も無視はできない。
だからこそ、キュービクル設計者や電気管理技術者には、現場条件に応じた最適な手法の選定能力が求められる。低圧LCユニットの特性を理解し、適切に活用することで、次世代のスマートな受電設備設計が実現できるだろう。

前田 恭宏
前田です
