
オーデリックの軌跡と「未来を照らす」経営戦略
946年創業のオーデリックは、米軍放出品から始まった歴史を糧に、国内屈指の総合照明メーカーへと進化しました。強みは「光の質」への執念が生んだ高演色技術と、国内一貫体制による柔軟なものづくりです。 2020年のMBOによる非上場化を経て、戦略は「器具の販売」から「空間制御」へ転換。AIやIoTを駆使したスマート照明や、生体リズムを整える健康志向の光で次世代のインフラを狙います。伝統的な職人技とデジタル技術を融合させ、世界を照らす「光の革新者」として新たな価値を創造し続けています。
光の革新者、オーデリックの軌跡と「未来を照らす」経営戦略
――戦後の焼け跡からデジタル・ライティングの覇者へ
日本の夜を眺めれば、そこには必ず「オーデリック」の灯りがある。家庭のリビングから洗練された商業施設、由緒あるホテルまで。同社は単に照明器具を製造するメーカーではない。空間の質を変え、人々の営みに彩りを添える「光のデザイナー」であり、技術の限界に挑む「エンジニアリング集団」でもある。
戦後間もない1946年、一人の創業者が米軍の放出品から見出した小さな光が、いかにして日本の照明文化をリードする巨大企業へと進化を遂げたのか。その波乱に満ちた歴史と、AIやDXが加速する現代において描く「次世代の光」の戦略を深掘りする。
1. 黎明期:米軍放出品から始まった「光」への挑戦
オーデリックの歴史は、終戦直後の混沌とした時代に遡る。1946年、創業者である大山秀雄氏が、米軍の放出物資であった蛍光ランプに着目したことがすべての始まりだった。当時の日本は深刻な物資不足にあり、夜の闇を照らす明かりは人々の希望そのものであった。
1951年、東京都三鷹市に「株式会社大山金属製作所」を設立。当初は蛍光灯の放電点灯管(グローランプ)の製造からスタートしたが、1950年代後半には白熱灯照明器具へと舵を切り、総合照明メーカーとしての基盤を固めていく。
社名に込められた「光」のアイデンティティ
その後、社名は「大山電機工業」「オーヤマ照明」と変遷し、1996年に現在の「オーデリック株式会社(ODELIC)」となった。この名称は、**「Oda(空間)」と「Delight(歓喜)」、そして「Electric(電気)」**を組み合わせた造語とも言われ、単なる電化製品ではなく「空間に歓喜をもたらす光」を届けるという強い意志が込められている。
2. 成長期:技術とデザインの融合が生んだ「高演色」の革命
オーデリックが競合他社と一線を画す最大の理由は、「光の質」への異常なまでのこだわりにある。LED時代が到来した際、多くのメーカーが省エネ性能(効率)を競う中、オーデリックは「色が美しく見えること(演色性)」を追求し続けた。
業界を震撼させた「R15」
その象徴が、高演色LED「R15」シリーズである。肌の色を美しく見せ、インテリアの質感を忠実に再現するこの技術は、プロの建築家やインテリアコーディネーターから絶大な支持を得た。「明るければ良い」という時代を終わらせ、「心地よい光」という付加価値を市場に定着させた功績は極めて大きい。
国内一貫体制の強み
また、山形県と東京都羽村市に自社工場を持つ「国内生産」へのこだわりも特筆すべき点だ。多品種・小ロット生産を可能にするこの体制は、顧客の細かなニーズに応える「特注照明」の分野で無類の強さを発揮している。
3. 転換点:MBO(経営陣による買収)と非上場化の決断
2020年、オーデリックは大きな決断を下した。マネジメント・バイアウト(MBO)による非上場化である。多くの企業が上場をゴールとする中で、なぜ彼らはあえて株式を非公開にしたのか。
「100年先を照らすための、迅速かつ大胆な投資」
上場企業には、短期的な四半期決算の数字が求められる。しかし、照明業界は今、単なる器具の販売から「コネクテッド・ライティング(つながる照明)」や「サーカディアン・リズム(生体リズム)」に基づいたウェルビーイングへの移行という、100年に一度の変革期にある。
オーデリックはこの荒波を乗り越えるため、短期的な株価に一喜一憂することなく、次世代技術への巨額投資や海外市場への再挑戦、さらには組織の抜本的なデジタル化を最優先する道を選んだのである。
4. 未来戦略:コネクテッド・エコシステムとグローバル展開
2026年現在、オーデリックが見据える未来は「照明器具」の枠組みを完全に超えている。
① 住宅・ビルの「脳」になる照明
同社が注力する「CONNECTED LIGHTING」は、BluetoothやWi-Fiを通じてスマートフォンやスマートスピーカーと連動する。しかし、それは序の口に過ぎない。最新の戦略では、照明器具に搭載されたセンサーが人流や温度、空気の汚れを検知し、エアコンや換気扇と連動して空間全体を最適化する「空間の制御塔」としての役割を狙っている。
② 光で健康を創る「サーカディアン」戦略
「光を浴びることで、睡眠の質を高め、生産性を向上させる」。オーデリックは、時間帯に合わせて色温度と明るさを自動制御し、人間の生体リズム(サーカディアン・リズム)を整える照明システムを強化している。これは住宅だけでなく、介護施設やオフィス市場において圧倒的な差別化要因となっている。
③ 海外市場への攻勢
2024年に台湾支社を設立するなど、アジア圏を中心としたグローバル展開を加速させている。日本の繊細な「おもてなしの光」と、高い技術力。これを武器に、成長著しいアジアの富裕層向け住宅や高級ホテル市場へ「ODELICブランド」を浸透させる狙いだ。
5. 結論:オーデリックが描く、次の「光」
オーデリックの歩みは、日本の住宅史そのものである。蛍光灯から始まったその灯りは、今やAIによって制御され、人々の健康や心の豊かさを支えるインフラへと進化した。
彼らの強みは、「伝統的な職人気質」と「最先端のデジタル技術」のハイブリッドにある。山形工場の緻密なものづくりを守りつつ、ソフトウェア開発においてはIT企業さながらのスピード感で進化を続ける。
「光があるところに、オーデリックがある」。
かつて創業者が米軍の放出品に見出した希望の光は、いまや世界を照らし、未来を拓く力強い輝きへと変わっている。私たちはこれからも、彼らが創り出す「光の魔法」によって、より豊かで、より美しい日常を享受することになるだろう。
前田 恭宏
前田です
