
コイズミ照明が描き出す「明かり」の300年史と未来
1716年創業、近江商人の「三方よし」をDNAに持つコイズミ照明。繊維、家具を経て2006年に照明専業へ舵を切り、老舗の殻を破ってLED革命を牽引してきました。 最大の武器は、心地よさを科学する「Sunset調光」や緻密な空間演出など、技術と感性を融合させたソリューション力です。単なる器具メーカーを超え、ショールーム「KL」での体験価値創造やIoT連携も推進。300年の歴史とベンチャーのごとき革新性を併せ持ち、「光の魔術師」として現代の空間に新たな価値を灯し続けています。
【企業探訪】近江商人の魂から、光の魔術師へ。コイズミ照明が描き出す「明かり」の300年史と未来
私たちの生活において、これほど劇的に、しかし静かに「空間の質」を左右する要素があるだろうか。 「光」。 単に闇を照らすだけの道具ではない。それは感情を揺さぶり、料理を美味しく見せ、安らぎを与え、時にはビジネスの勝敗すら分ける「空間の支配者」である。
日本には、この「光」という無形の商材に対し、300年以上の歴史を背負いながら、まるでベンチャー企業のような鋭利な刃(やいば)で挑み続ける企業がある。 コイズミ照明株式会社(KOIZUMI LIGHTING TECHNOLOGY CORP.)だ。
創業は江戸時代。近江商人の行商から始まったこの老舗は、いかにして学習机の有名メーカーという顔を持ちながら、日本屈指の「照明のプロフェッショナル集団」へと変貌を遂げたのか。その激動の歴史と、現在進行形の革新に迫る。
第1章:DNAに刻まれた「三方よし」――1716年からの旅路
コイズミ照明のルーツを語る上で、時計の針を**享保元年(1716年)**まで巻き戻さなければならない。 八代将軍・徳川吉宗が享保の改革を始めたその年、近江国(現在の滋賀県)で小泉太兵衛が麻布の行商を始めたのがすべての始まりだ。
彼らは典型的な**「近江商人」であった。 自分たちの利益だけでなく、買い手も喜び、そして世間社会にも貢献する。あの有名な「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」**の精神は、現代のCSR(企業の社会的責任)やSDGsを300年も前から先取りしていた経営哲学である。
明治、大正を経て、小泉産業として法人化された後も、彼らは常に「時代のニーズ」を嗅ぎ取る嗅覚に長けていた。繊維から始まり、戦後は熱源機器、そして家具へ。 多くの人々にとって「コイズミ」といえば、昭和の子どもたちが憧れた「学習机」のイメージが強いかもしれない。しかし、その裏で着々と、そして虎視眈々と育て上げていたのが**「照明事業」**だったのである。
なぜ照明だったのか? それは高度経済成長期、住宅が単なる「寝る場所」から「豊かに暮らす場所」へと変化する中で、インテリアとしての「明かり」が不可欠になると確信していたからに他ならない。商人のDNAは、来るべき「光の時代」を予見していたのだ。
第2章:分社化という決断――「照明専業」への覚悟
2006年(平成18年)、コイズミの歴史における最大の転換点が訪れる。 グループの持株会社体制への移行に伴い、小泉産業株式会社から照明事業を分社化。ここに**「コイズミ照明株式会社」**が誕生した。
これは単なる組織変更ではない。「退路を断つ」という決意表明だった。 家具の一部門としての照明ではない。光そのものをビジネスの核とし、技術と感性を極限まで研ぎ澄ませる。そうでなければ、激化するグローバル競争や、急速に迫りくる「LED革命」の波には勝てないという危機感と野心があったのだ。
この時期、照明業界は激震の只中にあった。白熱電球から蛍光灯、そしてLEDへ。光源のパラダイムシフトは、多くの伝統的メーカーを淘汰した。 しかし、コイズミ照明はこの荒波を逆に利用した。
彼らは早々に従来型光源の器具からLEDへの完全移行を推し進めた。 「既存の成功体験を捨てる」 300年企業の老舗でありながら、この身軽さと大胆さこそがコイズミの真骨頂である。彼らは単にLEDという「部品」を売るのではなく、LEDだからこそできる「デザイン」と「制御技術」に特化し始めたのだ。
第3章:技術と感性の融合――「あかり」をデザインする
現在、コイズミ照明が市場で圧倒的な存在感を放っている理由は、ハードウェア(器具)の性能だけではない。彼らが提供しているのは**「照明計画(ライティング・プランニング)」というソリューション**だ。
1. 空間を変える魔法「Sunset調光」
例えば、彼らの技術の一つである「Sunset調光」。 通常のLED調光は、単に光が弱くなるだけだが、コイズミの技術は違う。白熱電球のように、暗くなるにつれて光の色が赤みを帯び、夕暮れのような安らぎを生み出す。 これは「数値上の明るさ」ではなく、「人間の生理的な心地よさ」を科学した結果だ。高級ホテルやレストランがこぞってコイズミを採用するのは、この**「空気感を作る力」**があるからだ。
2. 店舗・施設照明での覇権
あなたが街のカフェで「落ち着くな」と感じたり、ブティックで「この服、色が綺麗だな」と感じたりしたなら、天井を見上げてほしい。そこには高い確率でコイズミのスポットライトがあるはずだ。 彼らは食材を美味しく見せる波長の光、肌を美しく見せる光など、用途に特化したスペクトル制御技術を持っている。商業施設において、光は売上を左右する「武器」であり、コイズミはその最強の武器商人として信頼を勝ち得ている。
3. グッドデザイン賞の常連
機能一辺倒ではない。プロダクトとしての美しさも徹底的に追求されている。 空間に溶け込むミニマルなデザイン、あるいは空間の主役となるアイコニックなシャンデリア。公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「グッドデザイン賞」を長年にわたり多数受賞している実績が、そのデザイン力の高さを証明している。
第4章:体験価値の創造――「KL」という実験場
コイズミ照明の本気度を体感したければ、東京・大阪などに展開するショールーム**「KL(KOIZUMI LIGHTING)」**へ足を運ぶべきだ。
ここは単なる「商品の陳列室」ではない。光のシミュレーション・ラボである。 ここでは、実際の住宅や店舗を模した空間で、照明の位置、色温度、明るさをミリ単位で調整し、空間の印象がどう変わるかをリアルに体験できる。
施主、建築家、インテリアデザイナー。プロフェッショナルたちがここに集い、コイズミのライティングデザイナーと共に「理想の光」を模索する。 カタログスペックだけでは伝わらない「光の質感」を共有する場を作ること。これもまた、「買い手よし」を追求する近江商人の哲学が、現代的な「体験型マーケティング」として昇華された姿と言えるだろう。
第5章:未来への照射――サステナビリティとスマートライフ
そして現在、コイズミ照明は次なるフロンティアへと歩を進めている。
スマートホームとの融合
IoT技術との連携はもはや必須だ。スマートフォンやスマートスピーカーで照明を操るだけでなく、生体リズムに合わせた自動調光システムなど、住む人の健康(ウェルビーイング)に寄与する照明環境を提案している。
環境への配慮
長寿命・省エネなLEDの普及はもちろん、製品のリサイクル性や製造過程でのCO2削減。300年企業だからこそ、「次の300年」を見据えた持続可能な社会への責任を、彼らは重く受け止めている。
結び:光のソムリエとして
コイズミ照明株式会社。 その歴史を紐解くと、江戸の行商から始まり、時代の荒波を「変化」を恐れぬ姿勢で乗り越えてきた、強靭な企業の姿が浮かび上がる。
彼らは今や、単なる照明器具メーカーではない。 建築の一部としての光、心理的効果としての光、そして生活を彩るアートとしての光。それらを自在に操る**「光のソムリエ」であり、「空間の魔術師」**だ。
もしあなたが、自宅のリノベーションや新しいオフィスの設計を考えているなら、あるいは、ふと立ち寄った美しい空間で感動を覚えたなら、思い出してほしい。 その光の向こう側には、300年の歴史と、最先端の技術、そして「人を幸せにする明かりを届けたい」という、近江商人の熱い魂が灯っていることを。
コイズミ照明の挑戦は終わらない。 夜が来るたび、彼らの物語は世界中の街角で、家々で、美しく輝き続けているのだから。
前田 恭宏
前田です
