
企業のEVと太陽光をつなぐBCP対策!
災害や停電時にも事業を止めないため、BCP対策の強化が求められています。近年注目されているのが、EVを非常用電源として活用し、太陽光発電と連携する「エネルギー自立型BCP」です。EVは“走る蓄電池”として機能し、再生可能エネルギーと組み合わせることで持続可能でレジリエントな電力供給が可能となります。本稿では導入事例や技術動向を交え、企業が実践できる次世代BCPの具体策を紹介します。
「非常時でも止まらない事業を実現する:EVと太陽光による次世代型BCP対策」
― EVを“動く蓄電池”に。災害に強いレジリエントな企業インフラの構築へ ―
近年、地震や台風、豪雨などの自然災害が頻発する中、企業が“止まらない”体制を構築することは経営の最重要課題となっています。停電やインフラ遮断といった危機的状況下でも事業を継続させるための「BCP(事業継続計画)」は、多くの企業で整備が進められている一方、形骸化していたり、実効性に不安が残るケースも少なくありません。
こうした中、今注目を集めているのが、**電気自動車(EV)を非常時の電源として活用し、太陽光発電と組み合わせる「エネルギー自立型BCP対策」**です。EVは単なる移動手段ではなく、“走る蓄電池”として企業インフラの一部として機能させることができます。また、太陽光と連携すれば、外部電力に依存しない持続可能なエネルギー供給が可能になります。
本コラムでは、最新の導入事例や制度動向、技術的なポイントを交えながら、EVと太陽光を組み合わせた次世代型BCP対策の具体像と、その実現ステップを解説します。停電や災害に強いレジリエントな事業体制構築のヒントとして、ぜひご活用ください。
1. はじめに:BCP対策と再エネ・EVの重要性
近年、自然災害の頻発や電力需給の不安定化により、事業継続力を高める「BCP(Business Continuity Plan)」対策が喫緊の課題となっています。特に、再生可能エネルギーの導入とEV(電気自動車)の活用は、サステナビリティとレジリエンスを両立できる先進的な手段として注目されており、事業者にとって戦略的価値が高まっています。
2. EV × 太陽光 × BCP:組み合わせの価値
EVを「走る蓄電池」として活用
EVのバッテリーは、停電時に電力供給源として機能します。日本では、東日本大震災後、三菱i‑MiEV用の「MiEV Power Box」を開発し、家庭用電力(最大1.5 kW相当)を5〜6時間補える機能を提供しています ウィキペディア。
太陽光発電との連携
太陽光発電で得た余剰電力をEVに蓄え、必要時に供給することで、再エネの有効活用が可能です。三菱自動車の岡崎工場では、使用済EVバッテリーを活用した大規模BESS(1 MWh)と、3 MWの屋根置き太陽光発電システムを設置し、非常時に避難所用施設へ電力供給が行える仕組みを構築しています mitsubishi-motors.com。
実証例:レジル社のマンションBCP適用
2025年5月、レジル社(MHIとMoplusによるJV)は、千葉県船橋市のマンション(全723戸)を対象に、EV(Nissan Caravan 改造 62 kWh)とV2Xシステム「I_DENCON」による共用部・会議室への自動電力切り替えデモを実施。停電検知から60秒でEV電力による供給を再開し、会議室設備なら最長48時間の供給が可能、エレベーターも1往復(4階)および10階までの往路供給に成功しています レジル株式会社。
3. グローバルな潮流:V2G/V2Xの動向
オーストラリアでの実証
2024年2月、メルボルンの嵐による大停電時、16台のV2G対応EV(Nissan Leaf)が瞬時に充電を停止し、計107 kWを送電、需給バランスを支えた事例が報告されています Engineering & Technology。
海外の広がりと普及予測
Studyによれば、2030年までに世界のEVオーナーの30%がV2Gに参加すれば、エネルギー貯蔵需要を賄える可能性があるとされています WIRED。
また、BYDのV2L(Vehicle‑to‑Load)機能により、オーストラリアで母親が息子さんの透析機器を停電中に稼働させた実例もあり、EVの非常用電力装置としての有用性が際立っています Business Insider。
4. 技術的および制度的な課題
技術面のハードル
V2G対応EVや双方向充電器の普及不足:現在対応車種・インフラは限定的です eureka.patsnap.comWIRED。
バッテリー劣化の懸念:頻繁な充放電による寿命への影響が懸念されますが、最適な管理で緩和する可能性があります WIREDPrism → Sustainability Directoryeureka.patsnap.com。
技術仕様の標準化とインターオペラビリティ:ISO 15118などの国際規格整備が進められています Prism → Sustainability Directory。
制度・市場面の課題
補償制度や料金設計が未整備:緊急時対応への対価や、通常時の料金差別化が十分でない地域が多いです Prism → Sustainability Directoryeureka.patsnap.com。
規制・保険面の不透明性:V2Gを行うEVに対する保険や法整備が未整備で、導入判断の障壁となっています Prism → Sustainability Directory。
5. 事業者における導入ステップとポイント
導入目的の明確化
– 停電時にどの機能(共用設備、オフィス、通信設備など)を維持したいか明確にします。太陽光発電とEVバッテリーのシステム設計
– スタンドアロン利用(会議室/エレベーターなど)のみか、平常時のピークシフト活用まで含めるか。
– システム例:岡崎工場型やレジル型の組み合わせ mitsubishi-motors.comレジル株式会社。V2X(V2G/V2H)技術の選定
– 車種(双方向充電対応)選び、充放電出力、制御機能などを評価。試行・パイロット運用の実施
– レジル社のマンション実証のように、限定設備/エリアでの試行が有効です レジル株式会社。経済的評価と制度対応
– コスト削減(ピークシフト、非常時対応の価値)、補助金/インセンティブの活用を検討。標準化・セキュリティ対策・保険整備
– ISO等の技術標準や、サイバーセキュリティ/保険対応を事前に設計します Prism → Sustainability Directory+1。
6. まとめ:戦略的BCPとしてのEV+太陽光連携
高いレジリエンス:自然災害や停電への迅速な対応力を得られる。
コスト効率:普段は移動用として使いながら、非常時には非常用電源として二次活用。
技術革新の先取り:V2G/V2X技術の黎明期に取り組むことによって、先進的企業としてのポジション確立。
結語
EVを「走る蓄電池」として、太陽光発電と連携したBCP対策は、単なる災害対策の枠を超えて、脱炭素経営と事業継続力を両立する最先端戦略です。日本国内でも、三菱自動車の岡崎工場やレジル社によるマンションBCP実証など、実用性を裏付ける事例が出始めています。
事業の規模や業種を問わず、導入の可能性は広く、今後の制度整備やインセンティブ整備の進展も期待されます。ぜひ、本稿を踏まえて、段階的・戦略的な導入をご検討ください。

前田 恭宏
練習