
マルーンの魂は、蒼き波を越えて猛牛へ —— 62歳の私が、2026年のオリックス・バファローズに夢を見る理由
西宮球場で山田・福本・加藤の黄金期に熱狂した私も62歳。球団譲渡や合併の痛みを経て、震災を照らしたイチロー、そして山本・宮城が築いた新たな黄金時代まで、全ての歴史を見守り続けてきた。 チーム名が変わっても、勝利を希求する「勇者」の魂は消えていない。山本由伸からバトンを受け継いだ宮城大弥を中心に、若き力が躍動する2026年シーズン。かつての栄光と誇りを胸に、再び頂点を目指すオリックス・バファローズを、私は全力で応援する。蒼き波を越え、猛牛はまた強く輝くはずだ。
【特別寄稿】マルーンの魂は、蒼き波を越えて猛牛へ —— 62歳の私が、2026年のオリックス・バファローズに夢を見る理由
鉛色の空の下、西宮北口駅に降り立つと、独特の威厳を放つスタジアムがあったことを、今の若いファンはどれくらい知っているだろうか。
私は今年で62歳になる。人生の時計の針を少しだけ戻せば、そこにはいつも「勇者(Braves)」たちがいた。私の青春は、あの気品あるマルーンカラーのユニフォームと共にあったと言っても過言ではない。
かつて西宮球場で声を枯らし、グリーンスタジアム神戸で震災復興を祈り、そして今、京セラドーム大阪で新たな夢を見ている。昭和、平成、令和と時代は移ろったが、私の野球愛の根底に流れるものは変わらない。
2026年シーズン開幕を前に、一人の古参ファンとして、愛するチームへの尽きせぬ思いと、これからの希望をここに記したい。
記憶の中で輝き続ける「勇者」たち
私の野球観の原点は、間違いなく1970年代の阪急ブレーブス黄金期にある。 当時、私が中高生だった頃の阪急は、ただ強かっただけではない。「大人の強さ」を持っていた。
マウンドには、史上最高のサブマリン・山田久志がいた。彼の投げるボールは、まるで生き物のように打者の手元で浮き上がり、絶望を与えた。そして、塁に出れば「世界の盗塁王」福本豊がいた。彼の足がダイヤモンドを駆け巡るだけで、相手バッテリーの配球が狂い、試合の空気が一変するのを何度も目撃した。打席には、いぶし銀にして最強のクラッチヒッター、加藤秀司が控えていた。彼の一振りで試合が決まる、あの頼もしさは今でも脳裏に焼き付いている。
上田利治監督の下、緻密で、隙がなく、そして何より強かった。巨人のV9を阻止し、日本シリーズで巨人を倒したあの瞬間のカタルシスは、私の人生における最初の「勝利の美酒」だったかもしれない。当時は「パ・リーグは人気がない」などと揶揄されたが、私たちは知っていた。実力こそが全てであり、ここにこそ本物のプロ野球があるのだと。
衝撃の譲渡、そして「イチロー」という光
1988年、秋。あの衝撃は忘れられない。「阪急、オリックスへ球団譲渡」。 ニュースを聞いた時、身体の一部をもぎ取られたような喪失感に襲われた。西宮球場でのラストゲーム、山田久志の涙。慣れ親しんだ「ブレーブス」の名が消え、「ブルーウェーブ」へと変わる。正直に言えば、最初の数年は心が追いつかない自分がいた。
しかし、その喪失感を埋めてくれたのは、一人の若き天才の登場だった。 1994年、鈴木一朗が登録名を「イチロー」に変え、日本中の常識を覆した。振り子打法から放たれる魔法のような安打の数々。そして1995年、阪神・淡路大震災。神戸の街が傷ついた時、チームは「がんばろうKOBE」を合言葉に奇跡のような快進撃を見せた。
仰木彬監督の采配の下、イチローが打ち、田口壮が走り、野田浩司がお化けフォークで三振を奪う。あの年の優勝は、阪急時代の「圧倒的な強さ」とはまた違う、「魂の強さ」を感じさせるものだった。神戸のファンとチームが一体となり、涙を流して喜び合ったあの光景は、球団名が変わっても「チームの魂」は死んでいないことを教えてくれた。
長すぎた冬の時代と、合併の痛み
2004年、再び大きな試練が訪れる。近鉄バファローズとの球団合併。 「オリックス・バファローズ」の誕生。これには多くの議論があり、多くの涙が流れた。かつてのライバル球団と一つになることへの葛藤。ブルーウェーブの青と、バファローズの赤が混ざり合うことの難しさ。
そこから始まったのは、長く苦しい「冬の時代」だった。Bクラスが定位置となり、優勝争いから早々に脱落するシーズンが続いた。黄金期を知る身としては、歯痒くて仕方がなかった。「あの頃は良かった」と、過去の栄光にすがるだけの老害にはなりたくないと思いながらも、情けない試合運びを見るたびにため息が出た。
しかし、それでもファンを辞めることはできなかった。なぜなら、時折現れる「希望の光」があったからだ。金子千尋の七色の変化球、T-岡田の豪快なアーチ。苦しい中でも懸命に戦う選手たちの姿に、かつての勇者たちの面影を重ねていたのかもしれません。
そして訪れた「黄金の投手王国」
長いトンネルを抜けた先に待っていたのは、想像を超える素晴らしい景色だった。 中嶋聡前監督が築き上げた、2021年からのリーグ3連覇。この数年間は、私の62年の人生の中でも、最もエキサイティングな日々だったと言える。
その中心にいたのは、山本由伸と宮城大弥だ。 山本由伸。彼の投球は、かつての山田久志を彷彿とさせる、いや、あるいはそれを凌駕するほどの「絶対的なエース」の輝きを持っていた。どんなピンチでも動じず、圧倒的なボールでねじ伏せる。彼がマウンドに立つだけで勝てる気がする。そんな投手に出会えたことは、ファンとして至上の幸福だった。
そして、宮城大弥。あの愛くるしいキャラクターからは想像できないほどの、クレバーで度胸満点のピッチング。緩急を自在に操る投球術は、往年のベテラン投手のようでありながら、若者らしい躍動感にも満ちている。山本由伸という絶対的エースの背中を追いかけながら、いつしか彼自身がチームの柱へと成長していった。
山本由伸がメジャーリーグへ旅立った今、そのバトンを受け継ぐのは間違いなく宮城だ。左腕から繰り出されるボールには、チームの未来が詰まっている。私は、孫を見るような優しい目線で、しかし心の中では熱く、彼を応援している。
2026年、頂点への回帰を目指して
さて、時計の針を現在に戻そう。2026年シーズンが幕を開ける。 昨シーズンまでの戦いの中で、我々は主力の流出や世代交代の痛みを味わったかもしれない。しかし、オリックス・バファローズというチームは、常に変化し、進化し続けることで生き残ってきた球団だ。
阪急ブレーブスの「誇り」、ブルーウェーブの「絆」、そして近鉄バファローズから受け継いだ「猛牛の荒々しさ」。これら全てが混ざり合い、今のチームの強固な土台となっている。
2026年、私が期待するのは「王座奪還」のみである。 宮城大弥を中心とした投手陣は、依然としてリーグ屈指の厚みを誇るはずだ。山下舜平大のような次世代の怪物たちが、そのポテンシャルを完全に開花させる時が来ている。打線においても、太田椋や紅林弘太郎といった、中嶋イズムを吸収して育った選手たちが、チームの顔として堂々と引っ張っていく姿が見たい。
かつて福本豊が塁間を疾走したように、今の若手たちがグラウンドを駆け回る。 かつて山田久志がマウンドで仁王立ちしたように、宮城大弥が完封勝利を挙げてニカっと笑う。
時代は変わった。野球のスタイルも変わった。しかし、勝利を渇望するファンの想いと、それに応えようとする選手の情熱は、西宮のあの頃と何ら変わらない。
私は今年62歳になる。あと何回、優勝の瞬間に立ち会えるだろうか。 だからこそ、一戦一戦が愛おしい。勝っても負けても、このチームを応援できることが幸せだ。
しかし、やはり最後は笑って終わりたい。 2026年の秋、京セラドーム、あるいは神戸の空に、歓喜の紙吹雪が舞うことを信じている。 かつての勇者の魂を胸に、新しい時代のバファローズが、再び頂点に立つその瞬間を。
さあ、行こうか。我らが愛するチームよ。 今年もまた、私たちに最高の夢を見せてくれ。
前田 恭宏
前田です
