
業務用エコキュートを考える
業務用エコキュートは、老健施設や工場など大量給湯を必要とする施設で、省エネ・CO₂削減・安全性に優れた給湯システムです。三菱電機は高温出湯(最大90℃)と高効率、省エネ管理を強みとし、ダイキン工業は高給湯圧力・寒冷地対応・連結運転による安定給湯を特徴とします。導入時は給湯負荷・設置環境・ピーク対応・補助金活用を総合的に検討することが重要で、両社の技術を比較し施設に最適なシステムを選定することが効果的です。
業務用エコキュートを考える前に知っておくべき事
はじめに
近年、施設給湯設備において「燃焼ボイラー+灯油/ガス」「電気温水器」といった従来方式から、ヒートポンプ給湯機、いわゆる「エコキュート」方式への切り替えが注目されています。特に、大規模あるいは連続的に大量のお湯を必要とする施設(老健施設、工場、宿泊施設、スポーツ施設など)では、ランニングコストや CO₂ 排出量低減、安全性・BCP(事業継続計画)対応などの観点から、業務用エコキュートの導入が有効です。
本稿では、老健施設・工場などの給湯ニーズに即した観点から、三菱電機・ダイキン工業の業務用エコキュートの特徴と導入上のポイントを整理します。
業務用エコキュートの設置先・ニーズを整理
まず、「老健施設(介護老人保健施設等)」「工場(製造ライン・社員食堂・シャワー設備併設)」「宿泊・滞在型福祉施設」「浴場・シャワーのある施設(スポーツ施設など)」といった設置先を想定し、給湯設備に求められる条件を整理しておきます。
想定される設置先と給湯ニーズ
老健施設・滞在型福祉施設
入浴、シャワー、厨房(調理・食器洗浄)、洗濯設備などが常設であり、日常的に大量のお湯を使う。入所者・宿泊者の安全確保、断水・停電時の対応(BCP)も重要。工場(製造ライン/社員寮・食堂併設)
例えば、社員食堂・更衣室シャワー・ライン洗浄にお湯を使用。使用量は変動することも多く、「ピーク時大量給湯」「非稼働時の保温」など変動対応が求められる。スポーツ施設・温浴・プール併設施設
シャワー・浴槽・更衣室等を併設するため、湯量・給湯圧力・迅速な立ち上げが必要。設置ニーズ(共通事項)
1. ランニングコスト低減(燃料代・電気代)
2. CO₂排出低減・省エネ対応
3. 安全性・火を使わない給湯方式
4. 変動負荷・ピーク対応/複数台連結対応
5. 断水・停電・災害対応(備蓄給湯・貯湯能力)
6. 設置スペース・耐震性・メンテナンス性
このようなニーズを踏まえて、次に各メーカー製品の特徴を見ていきます。
三菱電機(Mitsubishi Electric)の業務用エコキュート
製品概要と特徴
三菱電機の業務用ヒートポンプ給湯機、いわゆる「業務用エコキュート」は、同社サイトにおいて「自然エネルギー CO₂ 冷媒+インバータ制御で高温出湯」「年間加熱効率 3.7 を達成」「給湯・空調を一括管理可能」などが謳われています。 三菱電機 オフィシャルサイト+1
具体的には:
自然冷媒 CO₂ を用い、最高 90 ℃出湯を実現。 三菱電機 オフィシャルサイト+1
年間加熱効率 3.7(同社試算)を達成、従来のボイラー・電気温水器に比べてランニングコスト・CO₂ 削減に優位。 三菱電機 オフィシャルサイト+1
循環加温機能あり、浴槽保温運転や循環系への対応。 三菱電機 オフィシャルサイト
小型業務用モデルも用意されており、「福祉施設・工場・宿泊施設」なども対象として明示。 三菱電機 オフィシャルサイト
耐震・安全面にも配慮されており、小型モデルでは「耐震クラス S(水平震度1.0)対応」など記載あり。 三菱電機 オフィシャルサイト
メリット(老健施設・工場視点)
ランニングコストの削減
同社試算では中規模老人福祉施設の給湯負荷を想定し、ガスボイラー・油ボイラー仕様と比較して、電気式ヒートポンプ給湯機(業務用エコキュート)で年間加熱効率向上・消費エネルギー削減を実現しています。 三菱電機 オフィシャルサイト+1
給湯にかかる光熱費を抑えたい老健施設では、特に有効です。CO₂排出量の低減・環境対応
CO₂冷媒+ヒートポンプ方式により、従来燃焼式に比べて CO₂ 削減効果も高く、施設の環境負荷低減・SDGs 対応・省エネ法対応としても評価できます。 三菱電機 オフィシャルサイト高温出湯・循環加温対応
湯温が高く設定できるため、浴槽利用・シャワー・洗浄用途など幅広く対応可能です。さらに浴槽保温運転(循環加温機能)により、浴室を持つ施設(老健・宿泊・スポーツ施設)にも適しています。 三菱電機 オフィシャルサイト一括管理・システム連携
空調・給湯を含めた総合管理システム「AE-200J」との連携が可能とされており、施設全体の設備管理を統合化したい場合に有利。 三菱電機 オフィシャルサイト安全性・保守性
火を使わないため燃焼設備のメンテナンス・燃料調達・排ガス処理といった手間が軽減され、施設運営者にとって安心材料です。
注意・検討すべきポイント
初期導入コスト
ヒートポンプ給湯機は設備導入時のコストが比較的高くなる傾向があります。費用対効果(ランニングコスト削減 vs 導入費用)を事前に試算する必要があります。設置条件/スペース
給湯ユニット・貯湯槽・屋外機(熱源ユニット)など設置スペース・配管・運転音・屋外設置条件を確認する必要があります。ピーク給湯・給湯量変動への対応
大量給湯・短時間での大量使用環境(例:工場の洗浄シーン・施設の入浴ピーク)では、ヒートポンプだけでは湯切れ・加熱遅れが発生する可能性があります。対策(貯湯容量を確保、ハイブリッド運用)を検討してください。寒冷地・冬期運転
機種によっては外気温の低下による能力低下の可能性があるため、導入地域・用途に応じた耐寒仕様・加温補助の検討が必要です。メンテナンス・耐久性
設備の長期運用を見据え、メンテナンス体制・保証内容・定期点検計画を確認することが重要です。
導入時のポイント(老健施設・工場向け)
入浴・シャワーのピーク時間帯(例:朝・夕)の給湯量・湯温・流量を事前把握し、機種選定・タンク容量・ユニット数を決定する。
既存ボイラーなどからのリプレースであれば、ランニングコスト削減効果(燃料代・CO₂削減)を数字化して、導入費用回収年数を算出。
給湯負荷が変動する工場・シリーズ施設では「ピーク給湯+予備タンク」「ヒートポンプ+燃焼補助(ハイブリッド)」構成も検討。
設置スペース・屋外機騒音・排気・配管ルート・既存建物構造・耐震対策を早期に確認。
補助金・固定資産税優遇・省エネ法対応(Pマーク・建築物省エネ法)・BCP対応(災害・停電時)も含めたトータル検討。
運用開始後のメンテナンス計画(フィルター清掃、貯湯槽保温材劣化点検、リモコン・制御盤チェック)を設計段階から盛り込む。
ダイキン工業(Daikin Industries)の業務用エコキュート
製品概要と特徴
ダイキン工業は「業務用ヒートポンプ給湯機(業務用エコキュート)」として、給湯圧力・凍結対応・階上・遠距離配管・耐震・耐環境仕様などを強みに展開しています。 ダイキン+1
主な特徴:
給湯圧力 330 kPa を実現し、“たっぷりのお湯をパワフルに供給”をアピール。 ダイキン+1
外気温 −25℃の寒冷地に対応するモデル。 ダイキン
1台あたりの給湯量(日量・ピーク能力)を製品仕様として明記。たとえば「1日あたり供給湯量(60℃換算)」として 1,200 L/日~4,800 L/日など。 ダイキン
連結使用対応(最大4台まで)により、施設の給湯負荷に応じた対応が可能。 ダイキン+1
安全性・耐震性も配慮。例えば「耐震クラスA」をクリア。 ダイキン
停電時出湯対応機能あり。貯湯ユニットに貯めたお湯を非常時にも使用可能。 ダイキン
ハイブリッド給湯システム提案あり。ヒートポンプ+燃焼式併用による「湯切れなし」「ピーク時対応」を訴求。 ダイキン+1
メリット(老健施設・工場視点)
給湯圧力・給湯量の余裕
階上・遠距離給湯が必要な施設(例えば複数階建ての老健施設、更衣室・シャワーが屋上近くにある工場など)でも、給湯圧力に余裕があるため快適に使えます。特に、シャワー・複数箇所同時給湯が多い施設に有利。変動給湯量・ピーク対応力
連結運転・ハイブリッド運用対応により、給湯量が大きく変化する工場等でも柔軟な対応が可能です。寒冷地・屋外設置でも安心
外気温が低い地域や屋外機設置の条件が厳しいケースでも対応モデルがあるため、設置の自由度が高い。安全性・耐震・BCP対応
停電時出湯対応や耐震設計など、施設運営上安心できる仕様が整っており、老健施設・滞在施設においても安心材料となります。トータルサポート・サービス
24時間365日のサポート、法人向けリース・サブスクプランなど、導入・維持管理をトータルに支える体制が紹介されています。 ダイキン+1
注意・検討すべきポイント
初期費用・運用設計
特に大型給湯負荷の施設では、給湯タンク容量・連結台数・配管設計などが導入コストに影響します。ヒートポンプ給湯だけでピークを賄えるか、補助機器を併用すべきかを検討する必要があります。貯湯タンク・設置スペース・配管距離
給湯圧力が強くても、設置条件(タンク位置・配管長・高低差)による給湯ロスや湯温低下リスクを考慮することが大切です。給湯量予測・負荷変動の影響
工場などで生産ラインの稼働に応じ給湯量が大きく変わる場合、タンク容量の余裕・追加沸き増し運転・バックアップ体制を設計段階から組むことが望まれます。設備維持・補修体制
貯湯タンクの断熱材劣化、腐食・劣化、配管・バルブの維持管理、リモコン・制御盤のトラブル対応など、長期運用を見据えたメンテナンス計画が必要です。節電時間帯・電力契約プラン
ヒートポンプ給湯機は夜間電力や低時間帯電力を活用することでランニングコスト削減効果が高まります。施設契約の電力プランを見直すことも検討すべきです。
導入時のポイント(老健施設・工場向け)
シャワー・浴槽・食堂・ライン洗浄など「同時給湯が発生する箇所(時間帯)」を洗い出し、給湯タンク容量・連結台数・給湯配管ルート設計を行う。
既存設備(ボイラー・電気温水器)を置き換える場合、ハイブリッド給湯システム(ヒートポンプ+燃焼)への移行検討も含めて、湯切れリスク・ピーク給湯に備える。
停電・災害時の対応を検討。例えば、貯湯容量を残しておく、非常用給湯ラインを設置するなど。
設備更新・リース・サブスクなど導入スキームを検討。ダイキンでは法人向け初期費用ゼロプランも紹介されています。 ダイキン
メンテナンス契約・定期点検・リモート監視など維持管理体制を明確化する。
比較・まとめ:三菱電機 vs ダイキン工業
両社とも業務用エコキュート市場において優れた製品を展開していますが、老健施設・工場といった設置先での観点から、特徴を比較・整理します。
項目 | 三菱電機 | ダイキン工業 |
高温出湯(最高温度) | 最高90℃出湯を明記。 三菱電機 オフィシャルサイト+1 | 給湯圧力・給湯能力を強み。最高温度の明記少ないが「たっぷりのお湯をパワフルに供給」など。 ダイキン+1 |
年間加熱効率・省エネ性 | 年間加熱効率3.7、ランニングコスト・CO₂削減を明記。 三菱電機 オフィシャルサイト | 明確な数値記載は少ないが、高圧設計・断熱性能強化により省エネ訴求。 ダイキン |
給湯圧力/給湯量/連結性 | 小型モデルもあり、施設・工場・宿泊施設向けにラインアップ。 三菱電機 オフィシャルサイト | 給湯圧力330 kPa、1日あたり最大4,800 L(60℃換算)など給湯量仕様が明確。連結最大4台。 ダイキン+1 |
寒冷地対応/耐環境仕様 | 寒冷地向け仕様記載少ない(但し自然冷媒 CO₂ 採用) | 外気温 −25℃まで対応モデルあり。耐震・停電時出湯対応あり。 ダイキン+1 |
管理・運用・サービス面 | 空調・給湯統合管理システム「AE-200J」との連携可能。 三菱電機 オフィシャルサイト | 法人向けリース・サブスク、24時間365日サポート、ハイブリッド給湯提案あり。 ダイキン |
設置先適合性(老健・工場) | 給湯・循環加温・浴槽保温など福祉施設・工場用途対応。特に「中規模老人福祉施設」を想定例として掲載。 三菱電機 オフィシャルサイト | 食品スーパー・レストラン・老健施設など幅広く用途対応と明記。2温度同時給湯対応も可能。 ダイキン |
この比較から、「給湯圧力・量・変動対応」といった“ピーク/連結”の観点ではダイキンが強みを持ち、「省エネ性・高温出湯・統合管理」の観点では三菱電機がアピールポイントとなっていると言えます。設置先・用途・給湯負荷・設置環境(寒冷地・高所・配管長)などを踏まえて、どちらがより適合するかを検討することが重要です。
設置先視点で押さえておきたい導入&運用チェック項目
老健施設・工場という観点で、業務用エコキュート導入時に特に留意すべきポイントを整理します。
給湯量の把握と機種選定
施設における1日あたりの給湯量・ピーク3時間あたりなどの使用パターン(入浴時間帯、更衣室シャワー時間、洗浄時間等)を把握します。例えば、ダイキンでは「ピーク給湯能力(3時間)1,500 L/3時間」など仕様例が明記されています。 ダイキン
把握した負荷に対して、タンク容量・ユニット台数・連結可能数を検討。既設設備との比較・置き換え検討
既存の燃焼式ボイラー・電気温水器からの切り替えの場合、燃料費・電力費・メンテナンス費・CO₂削減効果を数値化して、導入費用回収(投資回収)を算出。三菱電機の例では中規模施設での削減試算が掲載されています。 三菱電機 オフィシャルサイト設備配置・設置条件の検討
・屋外機・タンク・貯湯槽の設置スペース確保・耐震・防震設計
・配管高低差・配管長・給湯圧力損失・断熱仕様の確認
・騒音対策(屋外機周囲への配慮)
・寒冷地・塩害地・高所屋上設置など特殊条件の有無ピーク対応・ハイブリッド運用
給湯需要が大きく変動する工場・宿泊滞在施設では、ヒートポンプ給湯機だけでピークを賄えない場合があるため、補助ボイラー併用やハイブリッド運用(ヒートポンプ+燃焼式)を検討。ダイキンではこの提案も紹介されています。 ダイキンB C P(事業継続計画)・災害対応
老健施設・宿泊施設では、停電・断水・非常時給湯が重要。例えば、ダイキンの貯湯ユニットには「停電時出湯対応」仕様あり。 ダイキン
貯湯タンクを夜間蓄熱運転し、非常時に残湯を利用できるようにするなど、運用ルールの策定が望まれます。運用・保守管理体制
長期運用を見据え、定期点検(貯湯タンク保温材・配管腐食・バルブ劣化など)、制御盤・リモコン・警報仕様を確認。メンテナンス契約やリモート監視オプション有無(例:ダイキンの24時間サポート)も検討。 ダイキン電力契約・夜間運転活用
ヒートポンプ給湯は夜間電力を活用することでコスト削減効果を高められます。電力契約プラン・蓄熱制御・ピークカット運転などを検討。三菱電機では「夜間の安い電気料金を利用し、お湯を作ることが可能」と明記。 三菱電機 オフィシャルサイト補助金・税制・省エネ法対応
新設備導入に関し、国・自治体の補助金や固定資産税優遇、省エネ法における義務(指定設備更新)などを確認。例えば三菱電機の小型業務用モデル紹介では「補助金対象製品」旨が記載されています。 カナデン製品サイト
老健施設・工場での導入事例イメージ
老健施設:入浴・シャワー・厨房・洗濯といった給湯要件が高く、常時使用されるため燃焼式ボイラーからヒートポンプ給湯機への切り替え効果が高い。導入時には、給湯ピーク(朝・夕)を想定し、タンク容量余裕を確保。特に三菱電機が「中規模老人福祉施設の給湯負荷を想定」として試算していることからも、福祉領域向けに仕様が整っていると言えます。 三菱電機 オフィシャルサイト
工場:社員食堂・更衣室シャワー等に加え、製造ラインの洗浄など突発的な大量給湯が発生する場合もあるため、「連結設置」「ピーク対応」「ハイブリッド運用」が鍵。ダイキンの「連結最大4台」「ハイブリッド給湯システム」の提案が工場用途にマッチします。 ダイキン+1
まとめと今後展望
本稿では、業務用エコキュート導入を検討する老健施設・工場等に向け、三菱電機・ダイキン工業の製品特徴・メリット・導入時のポイントを整理しました。どちらのメーカーも大手ならではの信頼性・技術力を備えており、設置先の用途・給湯負荷・設置環境・運用目的によって最適な機種・構成が変わってきます。
特に、施設運営者として注目すべきは以下の点です。
給湯量・ピーク負荷・設置環境を事前に正確に把握し、機種・タンク容量・ユニット台数・連結構成を設計すること。
ランニングコスト削減(電力・燃料)・CO₂削減・安全性・BCP対応などを数値化して導入判断を行うこと。
設備設置・配管・騒音・耐震・メンテナンス・将来更新の可否(長寿命)なども早期検討すること。
夜間電力活用・ハイブリッド運用検討・補助金・税制優遇の有無など、導入後のトータルコストを把握すること。
また、今後の展望として、脱炭素化の加速・省エネ法・建築物の環境性能強化・災害対策・IoT/遠隔監視との連携といった流れの中で、業務用エコキュートはさらに存在感を増していくと考えられます。例えば、三菱電機では「空調・給湯一括管理」対応を挙げており、設備の統合管理による効率化が進んでいます。 三菱電機 オフィシャルサイト
また、ダイキンでは「リース・サブスクプラン」「24時間365日サポート」など、導入・維持管理面でもサービス強化が進んでいます。 ダイキン+1
施設規模や用途・設置条件によっては、両社を比較しながら仕様・見積・収支性を検討し、最適な選定を行うことをお勧めします。

前田 恭宏
前田です
