
空調の「能力」って何?~kW、kcal/h、馬力の違い
空調の能力表記には「kW」「kcal/h」「馬力(HP)」の3種類があり、それぞれ熱量や出力を示す単位です。kWは国際標準のSI単位で、最近の家庭用エアコンに多く使われます。kcal/hはかつて主流だった熱量単位で、古い機器に見られます。馬力は業務用エアコンで今も一般的な表現です。単位ごとの換算関係を理解し、用途や空間に適した能力を選定することが、快適で効率的な空調設計には不可欠です。
空調の「能力」って何?~kW、kcal/h、馬力の違いと意味を徹底解説~
空調機器、特に業務用や家庭用エアコンのカタログや仕様書を見ていると、能力を示す単位として「kW」「kcal/h」「馬力(HP)」など、複数の表記が並んでいるのを見かけます。これらは一体何を意味しているのでしょうか?また、どの単位で能力を比較すればよいのでしょうか?
今回は、空調設備の能力表記に使われるこれらの単位について、それぞれの意味と違い、そして実際の選定にどう活かすかを分かりやすく解説します。
1. 空調の「能力」とは?
まず大前提として、「能力」とは何を指すのでしょうか。空調機器における能力とは、一般的に「ある空間に対して冷暖房を行う力」、すなわち冷房能力・暖房能力を数値化したものです。
この能力が大きいほど、広い空間や外気の影響を受けやすい場所でもしっかりと温度調整ができるということになります。逆に、能力が小さければ、空間がなかなか冷えない・暖まらないという事態になりかねません。
2. 空調能力の3つの代表的な表記方法
空調の能力は、主に以下の3つの単位で表記されることがあります。
kW(キロワット)
kcal/h(キロカロリー毎時)
馬力(HP、Horsepower)
それぞれの単位の意味と特徴を順番に見ていきましょう。
3. kW(キロワット)とは?
「kW」は国際単位系(SI)で用いられる電力・熱量の単位で、日本の最新の機器や業界標準においても最も一般的な表記です。
空調機において「冷房能力:5.6 kW」とあれば、それはそのエアコンが最大で5.6キロワット分の熱を空間から取り除ける、つまり冷やすことができるという意味です。
✅ メリット
SI単位系であり、世界的に標準化されている
他の電気機器と比較しやすい
実際の消費電力(電気料金)との関係も把握しやすい
✅ 参考:1 kW は何 kcal/h?
1 kW ≒ 860 kcal/h
これは、1時間あたりに860キロカロリー分の熱を移動できるということになります。
4. kcal/h(キロカロリー毎時)とは?
「kcal/h」は、かつて日本国内で広く使われていた空調能力の表記方法です。食品のカロリー表示と同じ「カロリー(cal)」に基づいた単位で、熱量をより感覚的に表すものです。
たとえば、「冷房能力:2800 kcal/h」と表示されていれば、そのエアコンは1時間に2800キロカロリーの熱を除去できるという意味です。
✅ メリット
熱量としての感覚がつかみやすい(例:体が消費するカロリーなどと同じ単位)
古い資料や機器、業界人の会話では今でもよく使われる
✅ デメリット
国際標準ではない
SI単位(kW)への換算が必要になることもある
✅ 参考換算式
1 kcal/h ≒ 1.163 W
1 kW ≒ 860 kcal/h
5. 馬力(HP、Horsepower)とは?
「馬力」という言葉は、エンジン出力の単位として自動車やバイクなどでおなじみですが、空調機器の世界でも古くから使われている単位です。日本の空調業界では「冷房1馬力 ≒ 約2.8 kW」とするのが一般的です。
ただし、注意すべき点は、ここでいう「馬力」はエンジンなどの機械出力としての馬力ではなく、**空調専用の能力換算としての“馬力”**であるということです。
✅ 1馬力の定義(空調業界での目安)
1馬力(冷房) ≒ 約2.8 kW ≒ 約2,400 kcal/h
ただし、実際の機種によって多少のばらつきがあるため、目安として用いるのが基本です。
✅ メリット
業務用エアコン(特にパッケージエアコン)などで今も主流の表記
能力感がひと目で分かりやすい(例:「3馬力」=中規模オフィス用)
✅ デメリット
国際的には使われない
実際の能力(kWやkcal/h)とずれることがある
6. 実際にどう比較する?換算早見表
単位 | 換算値(目安) |
1 kW | 約 860 kcal/h、約 0.36 馬力 |
1 馬力 | 約 2.8 kW、約 2400 kcal/h |
1 kcal/h | 約 0.00116 kW、約 0.00042 馬力 |
7. 使用シーンによる使い分け
● 家庭用エアコン → 「kW」が主流
最近の家庭用エアコンは、ほぼすべて能力表示が「kW」で統一されています。冷房能力2.2kW、暖房能力2.5kWなど、仕様書やカタログにもはっきり記載されています。
● 業務用エアコン → 「馬力」表示が多い
ビル用マルチ、パッケージエアコンなど業務用空調では、いまだに「○馬力」といった表記が主流です。これは施工業者や建設関係者の間で、「馬力」という単位が習慣として浸透しているためです。
● 古い設備や資料 → 「kcal/h」も確認すべき
古い機器では、kcal/hで能力が表示されていることもあるため、読み替えや換算が必要です。
8. 空調能力の選定における注意点
単位を理解した上で、実際に空調機を選定する際は以下のような点にも注意しましょう。
単純な広さだけでなく、用途(事務所、厨房、店舗など)や断熱性、方角、窓の大きさなども考慮する
過不足のない能力が最も経済的(大きすぎても無駄、小さすぎると効かない)
省エネ性能(COP、APFなど)も併せて確認する
実際の電力消費量(定格消費電力)と冷暖房能力は別物である
まとめ
空調機器の「能力」表記は、目的や使用環境によって「kW」「kcal/h」「馬力」などの異なる単位が使われています。それぞれの意味を正しく理解し、必要に応じて換算しながら比較・選定を行うことが、快適で効率的な空間づくりの第一歩です。
特に近年は、kW表記が標準化されつつありますが、実務においては「馬力」や「kcal/h」の表記とも向き合わなければならない場面が少なくありません。
本コラムを通して、空調能力に関する単位の理解が深まり、実際の機器選定や提案業務に役立てていただければ幸いです。

前田 恭宏
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