電線管の種類(厚鋼・薄鋼・ねじなし)

電線管は電線の保護や美観、安全性を確保するために使用され、「厚鋼管」「薄鋼管」「ねじなし管」の3種類が主に用いられている。厚鋼管は耐久性と防火性に優れ、主に高リスク施設で使用される。薄鋼管は軽量で施工しやすく、一般建築に多い。ねじなし管は施工性が高く、都市部や短工期の現場で重宝される。これらの併存は用途や法規制、地域の施工慣習などによるもので、現代においても用途に応じた柔軟な選定が求められる。
電線管の種類(厚鋼・薄鋼・ねじなし)とその背景・違いについて
はじめに
電気設備において、電線を物理的に保護し、かつ美観や安全性を確保するために使用される「電線管」は、建築物やインフラ施設など、さまざまな場所で重要な役割を果たしている。電線管には多様な種類が存在し、特に日本国内では「厚鋼電線管」「薄鋼電線管」「ねじなし電線管」といった分類が主に用いられている。これらの電線管は、使用場所や目的、施工性、コスト、安全基準などによって使い分けられており、現在もなお混在して使用されている。
本稿では、これらの電線管の種類と特徴、そしてそれぞれが混在する背景について概説し、なぜ現代に至っても統一されることなく併存しているのかを考察する。
1. 電線管の種類と特徴
1-1. 厚鋼電線管(Gタイプ)
■ 基本情報
規格:JIS C 8305(厚鋼電線管)
材質:溶接鋼管(黒管、または溶融亜鉛メッキ鋼管)
サイズ(呼び径):16mm(G16)〜104mm(G104)
外径例:
G16:21.7mm
G22:28.5mm
G28:34.0mm
G42:48.6mm
肉厚:おおよそ2.3mm〜3.5mm(サイズによって異なる)
■ 特徴
厚鋼電線管は、非常に強度が高く、機械的衝撃に強いのが最大の特長である。耐火性・耐久性にも優れており、地震などによる建物の揺れにも強い。電磁シールド効果もあり、ノイズに対する防護効果も期待される。
■ 接続方式・施工
管端にねじ切り加工を施し、ねじ込み式の金属製継手で接続する。
必要に応じて絶縁ブッシングを使用して電線の保護を行う。
施工にはねじ切り機(パイプマシン)やレンチなどの専門工具が必要。
■ 使用場所
屋外配線、プラント、病院、変電所、非常用電源系統、重要設備周辺
防火区画貫通部、地下ピット、機械室などの高リスクエリア
■ メリット・デメリット
◎ 高耐久・高信頼性・防火性◎
△ 重量があり、加工と施工に時間と労力を要する
△ 材料・人件費が高くつく
1-2. 薄鋼電線管(Cタイプ)
■ 基本情報
規格:JIS C 8305(薄鋼電線管)
材質:溶接鋼管(主に溶融亜鉛メッキ仕上げ)
サイズ(呼び径):16mm(C16)〜104mm(C104)
外径例:
C16:21.0mm
C22:27.0mm
C28:31.8mm
C42:46.0mm
肉厚:おおよそ1.6mm〜2.0mm
■ 特徴
薄鋼管は厚鋼に比べて軽量であり、持ち運びや施工がしやすいのが最大の特長である。住宅やオフィスビルといった一般建築で広く採用されている。
■ 接続方式・施工
ねじ込み式の継手を使用。ねじ切りが必要。
加工には厚鋼と同じくパイプマシンが使われるが、管が薄いため作業は比較的容易。
強度的に重負荷や露出配管には不向きな場面もある。
■ 使用場所
事務所、集合住宅、商業施設、店舗、倉庫
天井裏や壁内などの露出しない場所に多い
■ メリット・デメリット
◎ 軽量・加工が容易・施工が早い
◎ 材料費が比較的安価
△ 厚鋼ほどの耐衝撃性・耐火性はない
△ 露出配管では美観や強度面で制限がある
1-3. ねじなし電線管(Eタイプ)
■ 基本情報
規格:JIS C 8350(ねじなし電線管)
材質:薄鋼鋼管(主に溶融亜鉛メッキ鋼材)
サイズ(呼び径):16mm(E16)〜82mm(E82)
外径例:
E16:20.5mm
E22:26.5mm
E28:31.0mm
肉厚:約1.2mm〜1.6mm
■ 特徴
E管は、施工性を重視した製品であり、管端にねじ切り加工をする必要がなく、差し込み式の専用継手(スプリングロックなど)で接続可能。省力化・工期短縮が強く求められる現場において重宝されている。
■ 接続方式・施工
専用継手を使用し、手で差し込んで固定するだけの簡便な施工。
継手内部のバネや止め金具によって配管を固定。
ハンドツールだけで施工可能で、騒音や粉塵も少なく済む。
■ 使用場所
商業施設、マンション、オフィスビル、倉庫、駐車場
特に工期が短い現場や夜間施工が求められる都心部工事など
■ メリット・デメリット
◎ 圧倒的な施工性、省力化◎
◎ 工期短縮・人件費削減に効果的
△ 継手の保持力が劣ることがあり、強度面に制約
△ 強度が必要な露出配管や振動が多い場所では不適
補足:サイズ選定と曲げ加工について
電線管はいずれの種類も、呼び径に応じたサイズで選定されるが、同じ呼び径でも管種によって外径や肉厚が微妙に異なるため、継手や支持金具もそれぞれの規格に対応したものを使用する必要がある。
配管の取り回しには**ベンダー(手動または電動)**を使用し、任意の角度に曲げ加工を施す。厚鋼管は強度がある分、曲げ加工にも大きな力が必要であり、曲げ半径も大きくなる傾向がある。
このように、電線管は一見似ているようでも、構造、施工方法、使用場所、コスト、安全性などの面で大きく異なる特性を持っている。それぞれの特徴を正しく理解し、建物用途や法規制、施工環境に応じた適切な選定と施工が求められる。
2. 電線管の混在の背景
電線管の種類が現代においても混在している背景には、いくつかの要因がある。
2-1. 用途や建物種別による要求性能の違い
建物の用途や規模、設計方針により、求められる電気設備の性能は大きく異なる。たとえば、高度な安全性が求められる病院や防災拠点などでは、信頼性が高い厚鋼管が選ばれることが多い。一方で、住宅や商業施設など、コストや施工スピードが重視される現場では薄鋼管やねじなし管が好まれる。
このように、単一の規格や材質では多様なニーズに応えきれないため、複数の種類の電線管が併存し、それぞれの特性に応じて使い分けられている。
2-2. 建築・電気工事の慣習と地域性
電気工事の分野では、地域や業界ごとに根強い施工慣習が残っているケースが多い。たとえば、関西地方では厚鋼管を重視する傾向が強く、関東地方ではねじなし管の普及が進んでいるといった違いが見られる。これは、施工業者や設計者が長年培ってきた経験や技術的な信頼性に基づくものであり、新たな方式への移行には一定の時間と教育が必要とされる。
2-3. 法規制および標準仕様の影響
建築基準法や消防法、電気設備技術基準などにおいて、特定の用途や場所で使用すべき電線管の種類が明確に定められていることがある。たとえば、耐火区画を貫通する電線管には厚鋼管が求められるケースが多く、こうした法的な要件により、必然的に複数の種類が併用される場面が生じている。
さらに、設計仕様書においても「○○の部分はG管を使用」と明記されるなど、設計段階で明確に種類が指定されることも多く、現場での自由な選定が難しいという事情もある。
3. 今後の動向と課題
電線管の種類の混在は、施工現場において柔軟性をもたらす一方で、管理や調達、施工ミスのリスクを増加させる要因ともなる。とりわけ、複数の種類の継手や工具が必要となることで、在庫管理やコストの複雑化を招いている。
一方で、近年では施工性に優れたねじなし電線管の需要が増加しており、特に大規模再開発や都市型建築プロジェクトにおいては、工期短縮やコスト削減を目的としてその導入が進んでいる。また、電線管の材質についても、軽量かつ耐久性の高い樹脂系材料やハイブリッド素材の研究も進められており、将来的にはさらなる多様化が予想される。
ただし、いかなる新技術や製品が登場しようとも、安全性と信頼性が最優先される分野である以上、現場ごとに最適な電線管の種類を選定するという基本的な姿勢は変わらないと考えられる。
結論
厚鋼電線管、薄鋼電線管、ねじなし電線管の3種は、それぞれ異なる特性と利点を持ち、多様な建築・電気設備のニーズに応じて現在も併存している。各種管の選定は、用途、法規制、コスト、施工性といった複数の要素を総合的に考慮して行われる必要がある。また、施工現場の慣習や地域性、規制の影響も混在の一因となっており、単一の規格への統一は現実的ではない。
今後、技術革新により新たな種類の電線管が登場する可能性もあるが、安全性を確保しつつ柔軟な運用ができるよう、現場と設計の両面での理解と工夫が求められる。

前田 恭宏
練習