
電磁開閉器(マグネットスイッチ)の仕組みと役割
電磁開閉器(マグネットスイッチ)は、電磁接触器とサーマルリレーを組み合わせたモーター制御装置である。電磁接触器は電磁力で主接点を開閉し、遠隔操作や自動制御を可能にする。一方、サーマルリレーは過負荷時の電流増加で加熱し、制御回路を遮断してモーターを保護する。これにより、安全で確実な運転と停止が実現する。定期点検により接点や設定値を確認することで、設備の信頼性と安全性を長期間維持できる。
電磁開閉器(マグネットスイッチ)の仕組みと役割をわかりやすく説明します!
― 安全で確実なモーター制御を支える縁の下の力持ち ―
電動機(モーター)を安全かつ確実に運転するためには、単に電源をオン・オフするだけでなく、過負荷や短絡といった異常を検知して機器を保護する仕組みが欠かせない。その中核を担うのが「電磁開閉器」、一般に「マグネットスイッチ」と呼ばれる装置である。
私たちが身近に使うポンプ、コンプレッサ、空調機、工作機械などの内部では、このマグネットスイッチが静かに働き、機器の安全な運転と停止を制御している。本稿では、この電磁開閉器の構成要素である「電磁接触器」と「サーマルリレー」の役割、動作原理、構造、さらには現場での使われ方について詳しく見ていく。
■ 電磁開閉器とは
電磁開閉器(Magnetic Switch)は、**電磁接触器(Contactor)とサーマルリレー(Thermal Relay)**を一体化した制御機器である。
モーターなどの負荷に対し、「遠隔操作で電源をオン・オフする機能」と、「過負荷時に電路を遮断してモーターを保護する機能」を併せ持つことが特徴だ。
電磁接触器が「開閉の動作」を担い、サーマルリレーが「過負荷保護」を担う。この2つの装置が組み合わさることで、電磁開閉器は“モーター保護開閉器”としての機能を果たす。
■ 電磁接触器の構造と役割
電磁接触器は、電磁石の吸引力を利用して電路を開閉する装置である。
主な構成要素は次の通り。
電磁コイル:交流または直流電源により励磁されるコイル部分。
可動鉄心(アーマチュア):コイルに電流が流れると磁力で吸引され、接点を閉じる動作を行う。
主接点:電動機や負荷電流を実際に流す接点。
補助接点:制御回路や自己保持回路で使用される小電流用の接点。
● 動作の流れ
操作スイッチ(スタートボタン)を押すと、制御回路に電流が流れ、電磁コイルが励磁される。
磁力によって可動鉄心が引き寄せられ、主接点が閉じてモーターに電流が流れる。
同時に補助接点も動作し、自己保持回路が形成されるため、ボタンを離しても励磁状態が維持される。
停止スイッチを押すか、異常が発生してサーマルリレーが動作すると、コイルへの電流が遮断され、接点が開いてモーターが停止する。
このように電磁接触器は、遠隔操作・自動制御・多台制御などを容易にする中心的な役割を担っている。
スイッチを人が直接操作する代わりに、電磁力によって大電流を安全に開閉できる点が大きな利点である。
■ サーマルリレーの構造と役割
電磁接触器が“開閉の主役”であるのに対し、サーマルリレーは“安全装置”としての性格を持つ。
モーターが過負荷状態に陥ると、電流が通常値よりも増加する。この状態が続けばモーターは過熱し、絶縁劣化や焼損につながる危険がある。
これを未然に防ぐのが、過負荷保護リレー=サーマルリレーである。
● 構造の概要
サーマルリレーは主に次の要素から成る。
バイメタル(異種金属片):異なる膨張係数を持つ2種類の金属を貼り合わせた板で、温度上昇により反りが生じる。
動作機構:バイメタルの反りを利用して接点を開閉する仕組み。
リセット機構:動作後に手動または自動で復帰させるための装置。
● 動作原理
モーター電流がサーマルリレー内部を流れると、発熱によりバイメタルが加熱される。
過電流が一定時間続くとバイメタルが反り、機械的にトリップ機構を動かして制御回路の接点を開く。
これにより、電磁接触器のコイルへの電流が遮断され、主接点が開放されてモーターが停止する。
この一連の動作で、モーターを過熱による損傷から保護している。
サーマルリレーは「瞬時に遮断する」短絡保護用のブレーカーとは異なり、時間遅れ特性を持つのが特徴だ。
一時的な突入電流には反応せず、一定時間以上の過負荷に対して動作するよう設計されている。
■ 電磁開閉器の全体動作
電磁開閉器は、上記2つの装置を組み合わせて次のように動作する。
起動:スタートボタンで制御回路に電流を流すと、電磁接触器が動作し主接点が閉じる。
運転:モーターが稼働し、サーマルリレーはモーター電流を常時監視する。
過負荷検出:モーターに過電流が流れ続けると、サーマルリレーが加熱されて動作し、接触器コイルの電路を開く。
停止:主接点が開いて電源が遮断され、モーターが安全に停止する。
このように、電磁開閉器は「制御」と「保護」の2機能を一体化し、モーター制御盤や各種設備に不可欠な存在となっている。
■ 使用例と応用
電磁開閉器はあらゆる産業分野で利用されている。代表的な例を挙げると、
ポンプ制御盤:自動水位制御と連動し、ポンプを自動で起動・停止。
送風機・コンプレッサ:タイマー制御や温度制御と組み合わせた自動運転。
工作機械・搬送装置:リレー回路やシーケンス制御の基本要素として使用。
空調設備:電動弁・ファンモーターの制御。
さらに、逆転運転を行う「正逆運転回路」、複数台を順次運転させる「シーケンス制御」など、組み合わせ次第でさまざまな制御が可能である。
■ メンテナンスと点検のポイント
電磁開閉器は電気的にも機械的にも動作する装置であるため、長期間使用すると接点の摩耗やコイルの劣化が起こる。
安全で確実な動作を維持するには、定期点検が欠かせない。
主な点検項目は次の通り。
接点の状態確認:焼損や溶着、摩耗の有無を確認。接点抵抗が増加すると発熱の原因となる。
コイル電圧の確認:定格電圧で動作しているかを点検。過電圧や低電圧は誤動作を招く。
サーマルリレーの設定電流:モーター定格電流に合わせて調整。過大・過小設定はいずれも保護不良につながる。
動作試験:スタート・ストップ操作および過負荷試験による動作確認。
周囲環境:温度、湿度、粉塵、振動などが仕様範囲内かをチェック。
これらを定期的に行うことで、突然の停止や焼損事故を未然に防ぐことができる。
■ まとめ ― 電磁開閉器の意義
電磁開閉器は、単なるスイッチではなく、「安全」と「自動化」を支える知能的な装置である。
電磁接触器による確実な開閉動作と、サーマルリレーによる的確な過負荷保護。
この2つが組み合わさることで、私たちは安心してモーターを使いこなすことができる。
現代の生産設備では、インバータやPLC(シーケンサ)による高度な制御が進んでいるが、その根底には今も変わらず、電磁開閉器の基本原理が生きている。
小さな箱の中で黙々と働くマグネットスイッチは、まさに産業社会の“縁の下の力持ち”と言えるだろう。

前田 恭宏
前田です
