
「電圧降下(電気の息切れ)」と「電力損失(隠れた発熱)」の正体
延長コードが長いと「電圧降下」と「電力損失」が起きます。これは長いホースで水圧が弱まるのと同じ現象です。 ケーブル内の抵抗により電気が疲れ、家電のパワーが落ちる(電圧降下)だけでなく、失われたエネルギーは「熱」に変わり、火災の原因にもなります(電力損失)。特にコードを巻いたまま使うと、熱がこもり発火する恐れがあり危険です。 トラブルを防ぐには、①消費電力の大きい家電には太く短いコードを使う、②長くするなら太いコードを選ぶ、③使用時は必ずコードを全部引き出すこと、が重要です。適切なコード選びが安全を守ります。
その延長コード、本当に大丈夫?「電圧降下(電気の息切れ)」と「電力損失(隠れた発熱)」の正体
DIYやキャンプ、あるいは広いオフィスでの配線整理など、私たちは日常的に「延長コード」や「長いケーブル」のお世話になっています。「コンセントが届かないなら、長いコードを使えばいい」――これはとても単純で便利な解決策に見えます。
しかし、そこに目に見えない「落とし穴」があることをご存知でしょうか?
ケーブルが長くなればなるほど、電気は目的地に辿り着くまでに疲弊し、その一部は「熱」という危険な形に姿を変えてしまいます。今回は、専門的な計算式を一切使わずに、この**「電圧降下(電気の息切れ)」と「電力損失(ムダ使いと熱)」**の仕組みについて、わかりやすく解説します。
1. 電気は「水」、ケーブルは「ホース」
まず、電気の流れをイメージするために、庭の水撒きに使う「ホース」を想像してみてください。
電圧(ボルト) = 水道の蛇口をひねる強さ(水圧)
電流(アンペア) = ホースの中を流れる水の量
ケーブル = ホース
抵抗 = ホースの内側の摩擦や汚れ
蛇口を全開にして(高い電圧)、太いホースで水を流せば、水は勢いよく飛び出します。これが、コンセントのすぐ近くで家電を使っている状態です。
長いホースで起きること
では、このホースを10メートル、20メートル、50メートル……とどんどん長く繋げていったらどうなるでしょうか?
蛇口のひねり具合(電圧)は変わっていないのに、ホースの先端から出る水の勢いは、長さが増すほどにチョロチョロと弱くなっていきますよね。
これは、水が長いホースを通る間に、ホースの内壁との摩擦でエネルギーを奪われてしまうからです。電気の世界でもまったく同じことが起きます。これを専門用語で**「電圧降下」**と呼びます。
2. 電圧降下=電気が「疲れ」てしまう現象
電気がケーブルという「道」を通るとき、銅線の中にある「抵抗(通りにくさ)」に邪魔をされます。距離が長ければ長いほど、邪魔される回数が増え、電気は目的地(使いたい家電)に到着する頃にはヘトヘトに疲れてしまいます。
例えば、壁のコンセントからは「100の力(100V)」で送り出された電気が、長い延長コードを通ることで疲れ果て、掃除機やドライヤーに届く頃には「90の力」や「85の力」に下がってしまうのです。
「疲れ」て届いた電気の影響
「90の力」しか届かなかった掃除機はどうなるでしょう? 「なんだか今日は吸引力が弱いな?」と感じたり、電動工具であれば「モーターの回転が上がらない」といった不調が現れます。精密機器であれば、そもそも起動しない(安全装置が働いて止まる)こともあります。
これが「ケーブルを長くしすぎると良くない」と言われる第一の理由です。
3. 細い道と太い道:ケーブルの「太さ」も重要
長さと同じくらい重要なのが、ケーブルの「太さ」です。 ここでもまた、水や道路に例えてみましょう。
太いケーブル = 幅の広い高速道路
細いケーブル = 人がすれ違うのがやっとの細い路地
たくさんの車(電流)を一度に流したいとき、高速道路ならスムーズに流れます。しかし、細い路地に大量の車を流し込もうとするとどうなるでしょうか? 大渋滞が起きますね。
電気の世界での「渋滞」は、ものすごい「摩擦」を生みます。 細いケーブルに無理やり大きな電気を流したり、細いケーブルを長く伸ばしたりすることは、**「砂利道の細い路地を、スポーツカーで長距離走らせる」**ようなものです。車(電気)はボロボロになり、目的地に着く頃にはエネルギーの大半を失っています。
つまり、**「距離が長いなら、その分、道を太くして走りやすくしてあげないといけない」**のです。
4. 消えたエネルギーはどこへ? 恐怖の「電力損失」
さて、ここからが少し怖い話です。 先ほど、「100の力で出た電気が、到着時には90に減っている」という話をしました。では、消えてしまった「10の力」はどこへ行ったのでしょうか? 虚空に消えたのでしょうか?
いいえ、エネルギーは消滅しません。形を変えただけです。 失われた電気エネルギーは、すべて**「熱」**に変わっています。
これを**「電力損失」**と呼びます。
摩擦熱のイメージ
寒い日に両手をこすり合わせると暖かくなりますよね。あれは「動き(運動エネルギー)」を「摩擦」によって「熱」に変えているのです。 ケーブルの中で起きていることも同じです。電気が通りにくい長い道や細い道を無理やり進むとき、ケーブル自体が発熱します。
「たかが熱でしょう?」と侮ってはいけません。
長い延長コードを使った後、コードがほんのり温かい。
炊飯器やヒーターを使っているとき、プラグが熱い。
これらはすべて「電力損失」が起きている証拠です。本来、家電を動かすために使われるはずだった電気が、ただコードを温めるためだけに使われ、捨てられているのです。これは電気代のムダであるだけでなく、火災のリスクに直結します。
5. 最も危険な使い方:「巻いたまま」の使用
皆さんは、「電工ドラム(コードリール)」や長い延長コードを、束ねたまま、あるいはドラムに巻いたまま使っていませんか?
これは、電気の世界では**「自殺行為」**に近いほど危険な使い方です。
ケーブルが長ければ長いほど「熱」が発生すると説明しました。 ケーブルを真っ直ぐ伸ばしていれば、その熱は空気中に逃げていきます(放熱)。しかし、グルグル巻きにしているとどうなるでしょう。
ケーブルから熱が発生する。
巻かれているため、熱が外に逃げず、内側にこもる。
隣り合うケーブル同士が互いに温め合い、温度が急上昇する。
被覆(ビニール)が溶ける。
ショートして発火する。
これはIHクッキングヒーターのコイルのような状態を自ら作り出しているのと同じです。 「ちょっとしか使わないから」「全部伸ばすのは面倒だから」といって巻いたまま大きな電力(掃除機やドライヤー、ホットプレートなど)を使うと、驚くほど短時間でコードが溶けてしまうことがあります。
6. トラブルを防ぐための3つのルール
難しい計算は必要ありません。以下の3つのルールを守るだけで、電圧降下によるトラブルや、電力損失による火災リスクを劇的に減らすことができます。
① 「大食らい」の家電には、太く短いコードを
エアコン、電子レンジ、ドライヤー、電動工具など、電気をたくさん食べる(消費電力が大きい)家電を使うときは、できるだけ壁のコンセントを直接使うか、太くて短い延長コードを選んでください。100円ショップの細い延長コードでこれらを動かすのは、細いストローでシェイクを吸うようなもので、非常に負担がかかります。
② 長くするなら、太くする
どうしても遠くで電気を使いたい場合(屋外での作業など)は、「長いケーブル」が必要です。その場合は、**「距離が伸びる分、普段より太いケーブル(グレードの高いもの)」**を選んでください。プロが使う現場用の延長コードが太くてゴツイのは、この「電圧降下」を防ぐためなのです。
③ 巻いたコードは「全部引き出す」
ドラム式コードリールや長い延長コードを使うときは、必ずすべて引き出して使いましょう。たとえ使う距離が3メートルでも、残りの20メートルが巻かれたままなら、そこが発熱源になります。「使うときは全部出す」を鉄則にしてください。
まとめ:電気にも「通りやすい道」を用意しよう
電圧降下:長いコードや細いコードを通ると、電気の圧力(パワー)が落ちてしまう現象。
電力損失:通りにくさのせいで、電気が「熱」として捨てられてしまう現象。
電気は私たちの生活に欠かせないエネルギーですが、目に見えない分、その「流れにくさ」や「疲れ」に気づきにくいものです。
「コードが熱くなっている」 「機械のパワーが弱い」
もしそう感じたら、それは電気が「道が長すぎるよ!」「道が狭すぎるよ!」と悲鳴を上げているサインかもしれません。 たかが延長コードと思わず、用途に合った「長さ」と「太さ」を選んで、安全で快適な電気の道を整えてあげましょう。
前田 恭宏
前田です
