トップランナー基準の変更

経済産業省は、2026年度より変圧器に関するトップランナー基準を見直し、新たな省エネ性能基準の導入を発表しました。本件は、変圧器の新設・更新工事を請け負う電気工事会社様にとって、今後の提案・設計・調達・施工業務に直結する重要な内容です。本稿では、変更の背景・概要・影響・対応ポイントを整理して解説します。
■ トップランナー制度とは?
「トップランナー制度」は、エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)に基づく制度で、対象機器の中で最も優れた省エネ性能を持つ製品(=トップランナー)を基準として、一定期間後に販売される製品はそれ以上の性能を有することを求めるものです。
この制度は家庭用エアコンや照明器具、冷蔵庫などに適用されてきましたが、変圧器も対象の一つです。特に配電用変圧器(柱上変圧器・パッドマウント型など)は、長期間使用される設備であり、運用時の電力損失=エネルギーロスが大きいため、省エネ効果の高い機器の普及が求められてきました。
■ 今回の変更の背景
前回の変圧器に関するトップランナー基準は2014年度に設定されました。それ以降、省エネ技術の進歩や電力系統の変化(再生可能エネルギーの普及、電力需給構造の変化)により、より高性能な変圧器の製造が可能になってきました。
また、カーボンニュートラルの実現に向け、政府は2030年の温室効果ガス46%削減目標を掲げており、産業分野の省エネ推進が必須となっています。変圧器は全国に数百万台存在し、その電力損失を少しでも低減すれば、国家全体のエネルギー効率改善に大きく貢献します。
■ 2026年度基準の変更点(概要)
2026年度から適用される新基準では、以下のような点が変更・強化される見込みです(※2025年7月時点での最新情報に基づく)
● 対象範囲の拡大
• これまで対象外だった容量帯の変圧器や特殊形状の変圧器も新たに対象となる予定。
• これにより、より幅広い工事・設備で対応が求められることになります。
● 損失基準値の見直し
• 無負荷損(鉄損)および負荷損(銅損)に関する基準値が引き下げられ、より高効率の変圧器が求められます。
• 現行基準よりも最大10~15%程度の損失低減が必要になる可能性があります。
● 評価方法の変更
• 測定条件や試験方法についても見直しが行われ、より厳密な試験結果に基づく性能評価が実施される見込みです。
■ 電気工事会社が押さえるべき対応ポイント
今回のトップランナー基準変更に際し、電気工事会社が注意すべき点を以下に整理します。
1. 仕様選定時の注意
今後、発注者(官公庁・企業など)からは、トップランナー基準適合品を前提とした仕様書が主流になります。これに伴い、旧基準品では入札や設計要件を満たせない可能性があるため、常に最新の適合機器情報に基づいた製品選定が必要です。
2. メーカーとの情報連携
変圧器メーカー各社は、2026年の基準施行に向けて順次新製品を開発・リリースしていく予定です。特注品や納期がかかる品目も想定されるため、事前の情報収集と、設計段階からの打合せが重要になります。
3. 既設設備の更新提案
老朽化した変圧器を使用している顧客に対して、省エネメリットを前面に出した更新提案の機会が広がります。新基準適合品に更新することで、電気料金の削減やCO₂排出量の低減に貢献できるため、補助金制度などを活用した提案も有効です。
4. 省エネ法対応のアドバイス
顧客が省エネ法の「エネルギー使用合理化報告書」の対象事業者である場合、変圧器更新によるエネルギー削減効果を数値的に示すことで、報告書作成支援にもつながります。
■ 今後のスケジュール
2025年中には、経産省・資源エネルギー庁より正式な基準内容と適用日が告示される予定です。工事会社としては、今から基準変更を見据えた機器選定・顧客提案・社内研修を進めることが求められます。
■ まとめ
変圧器のトップランナー基準変更は、省エネ化とカーボンニュートラルの推進に向けた重要な一歩です。電気工事会社としては、単に機器を設置する立場から一歩進んで、エネルギー効率・コスト削減・環境貢献を総合的に提案できる体制を整えることが、今後の競争力強化に直結します。

前田 恭宏
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