「ミリネジ」と「部ネジ(インチネジ)」の違い

建設・設備業界で使用されるネジには、「ミリネジ(メートルねじ)」と「部ネジ(インチネジ)」があり、規格や寸法単位が異なります。ミリネジは主に日本やヨーロッパで使われ、インチネジはアメリカ製品や輸入部材などに多く見られます。規格を取り違えると、現場での締結不良や工程の遅れ、事故につながるリスクがあります。設計・調達・施工においてネジ規格の違いを正しく理解し、仕様書や図面への明記、工具や部材の確認を徹底することが重要です。
建設・設備業界で押さえておきたい「ミリネジ」と「部ネジ(インチネジ)」の違い
~ネジの規格が変わると、現場が止まる?~
はじめに
ネジは、建設・設備業界において極めて基本的かつ重要な部材の一つです。現場で使われるあらゆる部材、機器、構造物の固定や組み立てにネジは欠かせません。しかし、その「ネジ」にも種類があり、特に「ミリネジ」と「インチネジ(通称:部ネジ)」の違いは、知らないと現場で致命的なミスにつながることもあります。
本コラムでは、ネジの規格や呼び方の違い、それが実務にどう影響するのか、現場や設計・調達業務で注意すべきポイントをわかりやすく解説します。
ミリネジとインチネジ(部ネジ)とは?
ネジの規格にはいくつかの種類がありますが、建築・設備業界でよく取り扱うのが「ミリネジ(メートルネジ)」と「インチネジ(ウィットネジやユニファイネジなど)」です。
■ ミリネジ(メートルねじ)
正式には「メートル並目ねじ」や「メートル細目ねじ」などがあります。
日本やヨーロッパなど、メートル法を採用している国で一般的に使用されており、ISO規格(ISO 261、ISO 965)に準拠しています。
呼び径(ねじの外径)はミリメートル(mm)で表示
例:M6、M8、M10など
ピッチ(ねじ山の間隔)もミリ単位で定義されている
■ インチネジ(部ネジ)
一方、インチネジは主にアメリカやイギリスで使われている規格で、呼び径がインチ(1インチ=25.4mm)単位、またはインチの分数で表されます。
呼び径はインチで表示(例:1/4、3/8、1/2など)
ピッチではなく「TPI(Threads Per Inch)=1インチあたりの山数」で表記
主な規格は、ウィット(W)、ユニファイ(UNC/UNF)、管用ねじ(NPTなど)
インチネジは日本では「部ネジ」とも呼ばれることがあります。建築資材や住宅設備機器、特に海外メーカーの製品や古い規格品にはインチネジが多く使われています。
実務でよくある「ネジ規格の取り違え」
現場や設計で起こりがちなトラブルの一つが、「ネジの規格違いによる不適合」です。
■ ケース1:設備機器の取り付けに合わない
輸入品のポンプや空調機器などに付属するボルトがインチネジだった場合、日本国内で一般的に流通しているミリネジと合わず、施工中にボルトがはまらないという問題が発生します。
■ ケース2:既存設備との互換性がない
既設の配管部品にインチねじが使われていたことに気づかず、ミリねじの継手を用意してしまい、現場で取り付けできなくなることもあります。
■ ケース3:図面と実物の規格が異なる
図面では「M10」と指示されているが、実際の部品は「3/8インチUNC」というように、設計段階と調達段階で規格が混在していたケース。製作や発注時の見落としによって、工程の遅延につながることも。
それぞれのネジの特徴と使い分け
項目 | ミリネジ | インチネジ(部ネジ) |
規格 | ISO(国際規格) | UNC、UNF、W、NPTなど(主に米英規格) |
単位 | mm(ミリ) | インチ |
使用地域 | 日本・ヨーロッパ | アメリカ・イギリス・輸入製品 |
表示例 | M6×1.0、M10×1.5 | 1/4-20UNC、3/8-16UNF |
主な用途 | 建築金物、国内製品 | 配管継手、輸入品、旧規格品 |
互換性 | インチねじとは互換なし | ミリねじとは互換なし |
規格の見分け方と選定のポイント
現場でネジの種類を判断するには、以下のような方法があります。
■ ピッチゲージやネジゲージの使用
ミリネジとインチネジはピッチ(山の間隔)が異なります。ピッチゲージで確認することで、どちらの規格か判断可能です。
■ 工具やタップ、ダイスの規格確認
ねじ切りや穴あけ加工を行う際の工具がどの規格かを確認しましょう。工具側の規格を間違うと、ねじが入らなくなるため注意が必要です。
■ 図面や仕様書の記載を明確に
設計段階でネジの規格を明記することが、トラブル回避の第一歩です。「M」「UNC」「NPT」などの表記を必ず記載し、使用規格を統一しましょう。
規格の違いが生むリスクとその対策
■ 誤発注によるコスト増
同じサイズに見えるネジでも、規格違いで再発注になれば材料費・手間・納期が倍増することになります。
■ 締結不良や事故の原因
ネジがうまく噛み合っていない状態で無理に締めると、ねじ山をつぶしたり、締結力が不足して重大な事故につながる可能性も。
■ 対策:管理・教育の徹底
ネジ規格に関する社内教育の実施
検査工程でのダブルチェック
図面・発注書に規格の明記
輸入品やOEM製品の仕様確認
まとめ:ネジは小さくても、影響は大きい
建設や設備の現場では、ミス一つが工程全体に波及します。ネジの規格は一見地味ですが、正確な知識と理解が不可欠です。ミリネジと部ネジ(インチネジ)の違いを押さえ、適切な部材選定と管理を行うことで、現場のトラブルを未然に防ぐことができます。
特に異なる規格のネジを混在させることは、施工ミスや機器トラブル、事故の原因になり得ます。日常的に使用する小さな部材ほど、基礎知識を確実に身につけておくことが重要です。技術者一人ひとりが正しい情報を持ち、現場や設計で判断できる体制づくりが、信頼されるものづくりの第一歩となるでしょう。

前田 恭宏
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